『イニシエーション・ラブ』乾くるみ あらすじと感想 ネタバレなし

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感想 ★★★☆☆

近々映画が公開されるということで、久しぶりに読み返してみました。もしまだ未読だったら、ネタバレされる前に早く読んだ方がいいと思います。

映画がどんな風になるか分かりませんが、ネタバレ率は格段に上がるでしょう。やはり小説よりも映画の方が波及効果は高いと思うので。

僕が乾くるみの作品を読むのは『イニシエーション・ラブ』が初めてでした。内容に驚いたのはもちろんのこと、著者が男ということで二重に驚かされたのをよく憶えています。

作中にある仕掛けが施されていて、それがこの作品のすべて言っても過言ではない。いったいどうやって映画で表現するのか興味深いところ。

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あらすじ

人数合わせのために参加した合コンで、鈴木はマユに一目ぼれする。恋愛経験のない鈴木はどうアプローチしていいのかわからず、不器用に接していた。

だが、純粋無垢なマユに導かれるような形で次第に距離を詰めていき、やがて男女の関係になる。鈴木はマユにぞっこんでずっと大事にしようと誓うのであった。

会社の人事異動で、鈴木は静岡から東京に移動することになった。遠距離恋愛に多少不安はあったものの、鈴木は週末になるたびマユのもとに通い愛を育んでいた。

しかし、東京での暮らしに慣れるに従い、鈴木の心に変化が訪れる。仕事に追われ忙しいのに、毎週静岡へ帰るのは、体力的にも金銭的にも負担になっていた。

そして、鈴木はだんだんマユから同僚のミヤコへと気持ちが移っていくのだった。

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感想

ミステリランキングで上位に選ばれたりもしていますが、内容は普通の恋愛小説です。事件が起きるわけではありません。

裏を返せば、そんな普通の恋愛小説にミステリ的なトリックを施したのが上手いところ。思いついた時点で勝ちですね。

ミステリ小説の場合は身構えて読むけれど、恋愛小説の場合はそうじゃないから、意外性抜群で最大限の効果を発揮しています。

恋愛小説としてみれば、特になんてことない話です。どこにでもある平凡な男女の恋愛模様が、劇的なことが起きるでもなく、淡々と描かれています。

だから普通に読んでいる時は、最初から最後まで退屈にすら感じます。けれど、ある仕掛けを知った後だと、まったく違う光景が見えてくる。

その時に初めて「うわあ……」と声を漏らしてしまいます。コミカルなものからホラーへと変貌するのです。特にマユが便秘になったと語るエピソードはすごい。

そして、伏線が丁寧に張られているのが高評価の所以ですね。これが適当だと、ただの脈絡のない話になってしまう。2回読んでみると細かいところまで気を配っているのがよくわかります。

違和感を覚えても良いはずなのに、さして気にすることなく読み進めてしまえるのは、著者の手管が優れているからでしょう。

あとがき

本作は仕掛けが決まって初めて傑作となるから、映画でどう表現するのか非常に興味深いところ。

もし失敗したら一気に駄作の烙印を押されそうです。鈴木とマユのやり取り自体はまったく普通の物語ですからね。

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