
感想 ★★★★☆
戦後が舞台の人気ミステリシリーズの最新作。今回も三津田作品らしさを感じられる良作でした。シリーズを読み続けている人はもちろん、初めての人でも問題なく楽しめます。
民族学が好きな人におすすめの本格ミステリ
この刀城言耶シリーズは、民族学や昔の因習などに興味がある人におすすめ。何せ主人公の刀城言耶が、怪異譚を収集するのが趣味という設定なので、その手の話がいろいろ出てきます。
本作では、まず四つの怪談がプロローグのような感じで語られます。江戸、明治、戦前、戦後の各時代で場所は同じ㸿幽(とくゆう村)。
著者はホラー作家としても活躍しているだけあって、各話それぞれ不気味で面白かったです。そして、それがただの雰囲気作りでなく、本編とも密接にかかわってきます。
村に行くまでの旅の様子が描かれるため、事件に遭遇するまでは結構あります。旅の友は、言耶の担当編集者・祖父江偲と、後輩でこの地方出身の大垣秀継。彼ら三人が事件に奔走します。
巻き起こる事件の数々とトリック
どのような事件かというと、上記の怪談と呼応するかのような、四つの事件が起きます。一番面白かったのは竹林での餓死事件。密室だったわけでもないのに、なぜ被害者はその場にとどまって餓死してしまったのか。
これは面白いトリックでした。真相が明かされた時、思わず膝を打った。答えを知った後だと、あからさまとも言える伏線があるにもかかわらず、僕はまったくわからなかったです。
これなら餓死するのも納得。自分がもしこの立場だったらと思うと戦慄します。
物見櫓からの墜落事件のトリックもユニークでした。驚くまではいかなかったけれど、なるほどと納得させてくれます。
それ以外の二つの事件は、面白みに欠けるというか普通な感じ。でも真相が明らかになると、謎だったものがすべて明らかになって不満はないです。
不可解だった現在進行形の怪奇現象の理由には、驚かされました。
どんでん返しの連続
解決編はいつも通り、推理が二転三転する多重解決の趣向です。物語の締め方も怪談めいており、三津田作品っぽさがあります。
トリックに面白いものはあったものの、最終的な事件の顛末は現実的というか、ぶっとんだ感じは無かったです。
それでも満足できる面白い作品でした。個人的には㸿幽村の見取り図が欲しかったです。
このシリーズは基本的にページ数が多いので、物語の世界にとっぷり浸かりたい人におすすめ。ただホラーが苦手な人は注意が必要です。
特にグロい描写とかはないですが、連続殺人事件なので。


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