優しい青春ミステリ『探偵は教室にいない』 川澄浩平

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感想 ★☆☆☆☆

第28回鮎川哲也賞を受賞した作品。鮎川賞といえば本格ミステリの賞というイメージがありますが、正直言ってこの作品がなぜ受賞したのか疑問です。あまりにも普通過ぎて特に印象に残らなかった。本格ミステリを期待して読むと肩すかしをくらうのは間違いないです。

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あらすじ

本書は四話からなる連作短編集。舞台は北海道で登場人物は中学生です。日常生活を通して些細な謎に遭遇します。

一話目は差出人不明のラブレターに関する話。二話は合唱コンクールのピアノ伴奏を巡るいざこざ。第三話は主人公の友人の不審な行動に関する疑惑。最終話は家出した主人公の行方を友人たちが推理する。

ジャンルとしては日常の謎に分類されるけれど、ミステリという感じがしない。謎が提示されても、それはミステリ小説でいうところの謎ではなく、一般小説でもありそうな出来事に過ぎない。

だから論理が理路整然としていると思えないし、真相でカタルシスも感じられなかった。あっさりとした内容に加え、総ページ数が200くらいと少ないのもあって物足りなく感じました。

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ミステリとして

第一話のラブレターの文章で致命的なミスがありました。ネタバレになるので書けませんが、ある単語が書かれているせいで、すぐ真相に気付いてしまいます。謎解きの着眼点がユニークだっただけに、非常に残念。

どうしてこのまま出版されたのか疑問に思うレベルの見落とし。謎解きで意外性を出そうと思ったら、この単語は絶対にあってはならない。これがなければ良い短編でした。
他の話には推理といえるほどのものはなく、あっけなく終わります。安楽椅子系のこういうのでよくあるのは、様々な可能性が検討された末、真相に辿り着くというもの。でも、この作品にはそれがなくて、すぐに答えが示されます。

総評

本書を肯定的に捉えるなら、謎にリアリティがあるといえるかもしれません。本格ではお馴染みの密室や不可能状況に、中学生が遭遇することなんてまずないですからね。

だから等身大の青春小説として読む分にはいいかもしれない。とはいえ、青春小説としてみても普通過ぎると思う。本当によくある日常を描いた感じです。

なぜ鮎川賞に選ばれたのかはやはり謎です。ミステリ読みが鮎川賞に求めているものとは毛色が違うように思う。そういう理由で星一つにしましたが、まったく面白くないわけじゃありません。

例えば十代の同年代ならば共感して続きが読みたくなるでしょう。それにミステリが苦手な人でも安心して読めます。人は死なないし重い話もありません。ほのぼのした優しい小説です。

そういう意味で需要はあると思います。本書は小説すばるみたいな印象ですね。

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