『動機』横山秀夫 

感想 ★★★☆☆

四つの話が収められた短編集。登場人物が抱える悩みなどが丁寧に描かれていて、著者らしい作品。数々のミステリのランキングにも入っていて、ミステリ的な楽しみもあるものの、主眼としているのは人の心の機微です。

仕事や人間関係に悩む人々を描いているため、サラリーマン小説のようなところがあります。ちょっと期待しすぎましたが、普通に楽しめる作品。

人間ドラマが好きな人におすすめですね。

『動機』

警察署から警察手帳が奪われる事件が発生し、手帳を一括管理することを提唱した主人公の責任問題となる。

状況から考えて内部犯の可能性が高く、彼は独自に関係者から話を聞いて犯人を突き止めようとする。彼を陥れようとする者の仕業なのか、それともまったく違う理由なのか。

最後にあきらかになる犯行動機は、半ば予想した通りで驚きはなかったです。ただ、こういう動機は多くの人から共感を得るでしょうね。

『逆転の夏』 

葬儀社で働く男には人に言えない秘密があった。それは過去に人を殺したこと。そんな彼の元に人殺しを依頼する電話がかかってくる。

始めは相手にしなかったものの、話を聞くうちに心が動く。 相手を殺したい理由に共感できたし、何よりも成功報酬に目がくらんだ。彼は悩んだ末に犯行に及ぶことを決意する。

『ネタ元』

女性記者の主人公は現在の職場に不満を抱えていた。ストレス発散のために万引きをしてしまうような状態。

そんなある日、大手から引き抜きの話が来て喜ぶ主人公。だが、一つだけ懸念があった。それは彼女に特ダネを提供してくれるネタ元の存在。

大手は当然そのネタ元を求めているはずだが、彼女とネタ元の関係はひどく希薄。主人公は関係を強固にするため、ネタ元と積極的にコンタクトをとろうとするのだが……。

『密室の人』

常に正しい人であることを求められる裁判官の主人公は、公判中に居眠りをするという、とんでもないミスをおかしてしまう。

しかもあろうことか寝言で妻の名前まで呼んでしまう始末。そのことを記事にするという記者が現われ、主人公は動揺する。妻との慣れ染めには少しばかりやましいところがあったのだ。

職場での立場が危うくなり、さらには愛する妻の知らなかった過去も知り、彼は決断を迫られる。 

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