『万能鑑定士Qの事件簿Ⅲ』 松岡圭祐

violin

感想 ★★★☆☆

容姿端麗で幅広いことに精通している鑑定士の凛田莉子と、出版社の記者小笠原が活躍するシリーズの第三弾。

このシリーズは人の死なないミステリで、本作では詐欺事件を扱っています。蘊蓄が豊富で読んでいて「へえ」と頷くこともしばしば。肩肘張らずに読めて普通に楽しい。

著者もその点を意識して書いているようですね。なので、複雑に絡み合った重厚な物語を求める場合には、向いていないともいえます。

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あらすじ

人気アパレルショップの売り上げが急に落ち、頭を抱える店長のもとに脅迫電話がかかってくる。

売り上げの何%かをよこせばすぐに元通りに回復するが、断ればさらに悪化すると脅される。

店長は警察に相談に行くも、ろくに相手にされない。そんな時、雑誌でこの現象を特集している記事を見つけ、藁にもすがる思いで記事の執筆者の小笠原の元を訪ねた。

話を聞いた小笠原は、何かきな臭いものを感じて莉子と共に調査に乗り出す。そして、この現象には音響による仕掛けが関係していることを突き止める。

さらに詳しく調べているうちに、劣等生が英語のヒアリングで百点をとる出来事と遭遇。ここに至り、一連の事件の裏には、かつて一世を風靡した音楽プロディーサーが関わっていることが判明。

明確な証拠を残さない彼の犯行を、はたして莉子たちは実証できるのか――

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感想

音による詐欺二つについては、そんなことも可能なのかと思ったくらいで、驚きを得られるようなタイプではなかったです。

それよりも中盤以降で行われた犯行が面白い。音楽プロデューサーの信者たちが、中古販売店でCDを大量に購入したり、レンタルショップで借りて来たりする。

しかしまったく聞く素振りはなく、借りた物はすぐに返すし、買った物は売りに行くという。ではいったいなんのためにこんなことをしたのか?

なかなか魅力ある謎だし、その理由が秀逸でした。昔と比べて今はまったくCDが売れない時代。そんな状況で売り上げを伸ばすにはどうすればいいのか。

この犯行は決して許されないけれど、こういう方法を思いついたのは素直に凄いと思いました。

本作は現実の人物や商品などが実名で出てきます。音楽プロデューサーの名前は変えてあるものの、誰をイメージしているかは一目瞭然。

かつて大ヒット作を連発し、富と名声をほしいままにしていたのに、だんだん曲が作れなくなって借金まみれになったというキャラクター。

宇多田ひかるの登場が原因とまで書かれているのだ。本人は文句いわなかったのでしょうか。気になるところです。

あとがき

このシリーズの魅力になっている蘊蓄もたくさんあります。ルイヴィトンの本物と偽物の違いから、インドネシアについてまでいろいろ。

キャッチコピーである、知恵がつくというのもあながち間違いではないでしょう。

ここから興味を持って詳しく調べれば、凛田莉子とはいわないまでも、知識が豊富になるかもしれません。本作はまさにコンセプト通りの作品でした。

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