昭和ノスタルジック『わくらば日記』 朱川湊人 

bloom

感想 ★★★★☆

不思議な能力を持つ少女とその妹が主人公の連作短編集。昭和30年代を舞台にしたノスタルジックな作品でした。

著者の朱川さんはホラー小説も書いてますが、本作のようなハートウォーミングな物語を得意としていて、直木賞を受賞した『花まんま』や『かたみ歌』と同じような雰囲気がありました。

例え哀しい内容であっても、登場人物たちのキャラクター性によって暖かい気持ちにさせてくれます。

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あらすじ

人形のように美しく心優しい上条鈴音は、人に言えない不思議な能力を持っていた。それは人や物の記憶を透視する能力。

今まで誰にも言わずにいたが、ある事件をきっかけに妹の和歌子にだけ能力について打ち明ける。

そのある事件とは、和歌子の同級生が当て逃げにあって怪我をしたというもの。

和歌子は鈴音に能力を使ってほしいとせがむ。鈴音の能力は空間の記憶も見ることが可能なので、事件の場所に行き、そこで何が起きたのかを透視して犯人を見つけようと試みる。

犯人は無事見つけられたものの、姉妹はむやみに力を使うべきではないことを思い知る。

その後も様々な出来事で鈴音の能力が発揮される。ある時は警察の要請で。またある時は友人を救うために。上条姉妹を中心に人のつながりを描いたやさしい物語の数々。

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感想

ノスタルジックな雰囲気もさることながら、本書の魅力はやはり姉妹のキャラクター。

姉の鈴音は、プロレスを見ただけで寝込んでしまうような優しくて繊細な少女。対して妹の和歌子は好奇心旺盛で活発な性格。

この仲睦まじい二人のやり取りが微笑ましくて、読んでいて暖かい気持ちになります。昭和は古き良き雰囲気と相まって、気持ちの良い読書体験となりました。

ただ、各短編のストーリー自体は平凡ですかね。何らかの謎があって、鈴音が透視して解決というのが基本的な流れ。謎の解決という意味では、呆気なく終わってしまいます。

ミステリではないからそれでもいいのですが、ミステリ好きとしては少し残念に感じました。

あとがき

悲しい部分もあるけれど、基本的には人々の心の機微を描いた優しいお話。朱川湊人はこういう話を書かせたら本当に上手い。

実際の昭和の出来事にも触れていて、ノスタルジックを感じられます。非常に雰囲気のある小説でした。

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