小説投稿サイトが舞台のメタ小説『異セカイ系』名倉編

isekai

感想 ★★☆☆☆

メフィスト賞を受賞した著者のデビュー作。メフィスト賞らしい奇抜さがあり、ミステリ要素もあって受賞したのも頷けます。小説投稿サイトを舞台にするというのも、時代性を表していますね。その着眼点も評価されたんじゃないでしょうか。

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あらすじ

小説を書くのが生きがいの〝おれ〟は、小説投稿サイトで念願のトップ10入りを果たした。小説を書く才能はあっても実際はただのフリーター。そんな現実に絶望して死にたいと思ったおれは、その瞬間、異世界に転生する。しかもそこは自分の書いた小説世界だった。

現実世界と小説世界とを自由に行き来できるようになったおれは、自分の創作した理想的なヒロインとラブラブになり、天にも昇る心地だった。しかし、そこではたと気付く。自分はヒロインの母親を死なせる物語を書いたのだ。

ヒロインを悲しませたくないおれは、その展開を変えようと試みる。そして誰もが幸せになる小説を目指すのだが、様々な問題起きて・・・。果たしておれは小説世界を、そして現実世界をも幸せにできるのだろうか。

ジャンルとしてはメタSFというやつになるのでしょうか。筒井康隆の実験的な作品を想起させます。純粋にストーリーを楽しむタイプの小説ではない気がします。

地の文は関西弁の軽い文体。ライトノベルやなろう系小説を意識してこのような文体になっています。こういう文体は読み慣れていませんが、それでも特に読みづらさは感じなかったです。

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ミステリとして

本作には本格ミステリではお馴染みの「読者への挑戦状」ならぬ「作者への挑戦状」が挿入されています。

そこには二つの問いが書かれているのですが、具体的に何か事件が起きたわけではないので、応えようがない。だからこれはいったいどういう意味なんだ、といった感じで展開していきます。

そういう性質なので読者も一緒になって推理するわけじゃないです。それでも、だいだいの予想はつきましたが。

結末が明らかになるパートでは、どんでん返しが用意されているので、ミステリっぽさもあります。でもやはりミステリが本質ではないですね。

メタフィクションとして

この作品を奇抜な作品にたらしめているのはその構造にあります。ある日、主人公は自分の執筆している異世界小説に入れるようになります。

そこから、現実世界と異世界が交互に語られ、途中でメタ的仕掛けが施されているのが明らかになります。

それだけで終わらず、「作者への挑戦状」によって、小説とは何なのか、キャラとは、作者とは何なのかを問いかけるような作品になっています。

メタ的には興味深い試みと思うものの、次第にこんがらがって来て、僕は純粋に面白いとは思えなかったです。途中までは楽しんで読んでたんですけどね。

著者にどうしても伝えたいことがあるのはよく分かりました。世の中がどういう風になってほしいのか、作品内で語っているそれは本心だと思う。メタ的な仕掛け、奇抜さだけを目的に書いたのではなく、強いメッセージが込められているんだと感じました。

総評

正直いうと、僕には合わなかったというのが本音ですね。その大きな理由の一つに物語の設定があります。

この作品は〝小説家になろう〟のような小説投稿サイトが話のメインになっていて、僕はその手のサイトをちゃんと利用した経験がないので、今一つ乗り切れませんでした(もちろん、どういうタイプの作品が多いのかは知っています)。

反対に共感できる部分も多々ありました。働いている時につまらないと思ったり、現実世界に生き甲斐を感じない、どこか遠くへ、異世界に行ってしまいたいと思う気持ちは分かります。

終盤で主人公が語るメッセージについても、例えそれが青臭い綺麗事だとしても、そんな世界になれるなら良いなあと思ったりもします。

いろいろと癖のある小説に違いありませんが、小説の在り方についての問題提起など、面白い試みを行っています。純粋にストーリーを楽しみたい人よりも、そういうメタ的なことに興味ある人におすすめです。

特に小説や漫画など創作活動を行っている人は、いろいろ考えさせられるものがあるんじゃないでしょうか。次の作品ではどんな物語を書くのか、非常に楽しみですね。

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