
感想 ★★★☆☆
『体育館の殺人』から始まる館シリーズは、若い感性で書かれる新たな館ものとしてなかなか好評を博している模様。今回の作品もそのシリーズの一冊で、お馴染みのキャラが登場します。他の作品と異なり本作は短編集で、五作が収められています。はたしてその出来栄えやいかに。
違うおかずを二品のせられる二色丼は、生徒たちから人気の高い食堂の名物。ある日、一色だけ手つかずのまま放置された丼ぶりが発見される。しかも誰も来ないような辺鄙な場所で。
これを食べた人物は一色しか食べる気がないのになぜ二色丼を注文したのか。食堂のおばちゃんの怒りを鎮めるために、裏染天馬は推理を始める。
『風ヶ丘五十円祭りの謎』
夏休みに兄とお祭りに来た柚乃はそこで奇妙な事態に遭遇する。屋台で何かを買うとお釣りがすべて五十円玉で返却されるのだ。
不思議に思って店主に尋ねても運営からそうするよう言われたと応えるだけで理由は不明。たまたま祭りに来ていた裏染と共に二人はこの謎に挑む。
『針宮理恵子のサードインパクト』
不良少女、針宮理恵子は夏休みの暇潰しに学校の図書室に来ていた。その帰りに彼女はいじめの現場を目撃する。吹奏楽部の部室の前で、男子生徒が中に入れてもらえず泣きべそをかいていた。その男子生徒というのが実は彼女の恋人だったからさあ大変。
怒った彼女は扉をこじ開け中にいた部員に詰問するも、当然のようにいじめではないと否定する。しかし翌日もまた同じことが繰り返される。困った彼女は裏染に解決を依頼。弱味を握られた裏染は渋々了承するしかなった。
『天使たちの残暑見舞い』
ある男子生徒が新学期が始まって早々、不可解な場面を目撃する。誰もいない教室で女子生徒二人が抱き合っていたのだ。それだけでも衝撃的なのに、さらに驚いたことに、二人は教室から煙のように姿を消してしまった。
教室の出入り口は男子生徒が監視していたのでそこから出ることは出来ない。この不可能は状況で二人はいったいどうやって消失したのか。
『その花瓶にご注意を』
裏染の妹・鏡華とその友人が教室を出ると廊下で異変が起きていた。先程まで台の上に乗っていた花瓶が床に落ちて粉々になっていたのである。だが不思議なことに割れる音は一切しなかった。推理を進めて花瓶を割った犯人候補に辿り着くも、とても厄介な人物だった。
罪を認めないばかりか、濡れ衣だと白を切って逆に脅してくる始末。はたして鏡華は兄譲りの推理力を発揮し、音もなく割れた花瓶の謎を解いて犯人を追いつめることができるのか。
ミステリとしての感想
トリックについては強引に感じるものもありましたし、真相が呆気なく感じられるものもありました。それでも短編集としては概ね満足。驚嘆するような気持ち良さを得られずとも、各話それぞれ違ったテイストで退屈せずに読了できました。
表題作の『風ヶ丘五十円祭りの謎』。これは言うまでもなく、若竹七海の五十円玉二十枚の謎に挑んだものですが、五十円玉を増やした理由は理にかなっていました。しかし、しょぼさを感じずにいられなかった。
もっと壮大な奸計を期待していたので肩透かしを食らった気分。ミステリとしては『その花瓶にご注意を』がそれっぽくて優れていました。
個人的には『天使たちの残暑見舞い』が一番好きです。真相は半ば予想できますが、僕は密室ものが好きなので贔屓目で見てしまう。
青春小説としての感想
青春ぽさを優先するなら『鈴宮理恵子のサードインパクト』が良かったです。恋愛要素があって青春小説に求める甘酸っぱさを感じられます。
シリーズの主人公である裏染と
柚乃のやり取りが楽しめるのは『風が丘五十円玉祭りの謎』。小説、マンガ、アニメを問わず、お祭りの話は青春ものでは大事なエピソード。ミステリとしては小粒ですが、シリーズファンとしては外せないでしょう。それと、本作では針宮や鏡華を語り手にした短編があって、長編では分からない側面を描いています。この短編集によってシリーズとしての幅が広がった感じがします。
最後に
基本的には学校内で事件が起きるので、青春ミステリを探している人におすすめ。殺人事件も起きないし、後味が悪くなるような話もないので、日常の謎を読みたい人にも丁度いい。
普段本を読まないから長編を読むのはしんどい、という人にもおすすめです。ライトなテイストで軽い文体なので読みやすいです。



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