ロジカル青春ミステリ小説『図書館の殺人』 青崎有吾 ネタバレ感想

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感想 ★★★☆☆

『体育館の殺人』、『水族館の殺人』に続く長編三作目。今回は図書館で殺人事件が起きてそれを時間をかけて推理しながら、その合間に裏染たち高校生の日常が描かれるという具合。だから本作をいきなり読むよりも、これまでの作品を読んでおいた方がより楽しめます。

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あらすじと構成

深夜の図書館で殺人事件が発生。被害者は謎のダイイングメッセージを残しており、警察はこれまで難事件を解決してきた高校生の裏染天馬に捜査協力を仰ぐ。

かくして事件に関わることになった裏染と一学年下のJK柚乃のコンビは、期末試験に四苦八苦しながら事件解決に挑む。


今回はいつものメンバーに加え、新キャラの図書委員・城峯有紗が登場し、彼女が物語の重大な鍵を握ります。というのも、殺されたのは有紗のいとこなのだ。それがきっかけで裏染たちとも知己となります。

学校の様子が描かれたり、登場人物たちのキャラクター性もあって、日常の謎系のほのぼのした雰囲気があります。尚、本書では裏染の謎めいた過去も少し明らかになる。


さて肝心の事件の方に話を移すと、これまでと同じように小さなことから推理を重ね、真相を導き出します。起きる殺人事件は一つだけ、それを順序立てて検証するという形式なので、劇的な要素はないです。

ロジックに拘ったミステリが好きな人向けですね。前回の『水族館の殺人』と同じです。次々と事件が勃発するタイプの作品が好きな人は、ゆっくりで地味に感じるかもしれないし、猟奇的な事件が好きな人は物足りなく感じるでしょう。

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本格ミステリとしての感想

犯人特定に至るまでのロジックに関して基本的に不満はありません。緻密に考えられていて、なるほどなあと思う部分もあります。『体育館の殺人』の時も言いましたが、こういう話を書くには特別の才能が必要だと思うので感心させられます。

〝若き平成のエラリー・クイーン〟というキャッチコピーが過言でないことを、シリーズを通して証明しています。それでも不満に思うところがあってそれは犯人の動機について。

この先はネタバレしています(反転で文字を表示させて下さい)。

犯人は被害者の母親だったわけですが、この母親が息子を殺すことには納得しかねる。例えば、親子の仲が悪かったなら、肯くこともできるかもしれません。しかし、そんな描写がないどころか、普通よりも仲が良いくらいに見えます。

実家暮らしだし、まして母子家庭なのだ。苦労して一人で育てたあげた最愛の息子を殴り殺すなど、よほどの理由がない限り、到底納得できない。したがって無理矢理納得しようとするなら、母親はある種の精神病だったと考えるしかありません。


ここから先は個人的な推測ですが、おそらく母親は有紗が書いた小説を読んでいて、その犯人が母親だったことに強い不満を持っていたのでしょう。事件当夜、息子と母親は現場で言い争ったということですから、そこでこの小説の真相を知ったのではないか。

彼女が忌むべき小説を息子は絶賛し、図書館に置いた張本人でもあった。そして著者の有紗と共にこの悪戯を楽しんでいた。

自分が嫌いなものを好きと言われると良い気はしないものです。それが愛する息子だったら尚更むかついたことでしょう。息子を溺愛するあまりの嫉妬、倒錯した歪んだ愛からの犯行と捉えると何とか納得できそうです。

そもそも大学生にもなった息子の後を追って図書館に行くこと自体が異常だ。よって母親は精神の病気だった。本文ではまったく触れられていないので、著者の考えはわかりません。しかし、こうでも考えない限り犯人の行動はまったく理解できそうにないです。


といった理由で動機に関して一言述べたくなりますが、ロジック重視の人は楽しめるでしょう。それと青春ミステリが好きな人にもおすすめします。

最後に

『体育館の殺人』では密室トリック、『水族館の殺人』ではアリバイトリック、そして今回の『図書館の殺人』ではダイイングメッセージ。トリックのジャンルを順番にやってきているので、次は何に挑むのか期待感が膨らみます。

この新たなる〝館シリーズ〟も今っぽさがあって良い感じですね。

 

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