動機が凄い青春ミステリ小説『水族館の殺人』青崎有吾 

suizokukan

感想 ★★★☆☆

鮎川哲也賞を受賞した『体育館の殺人』に次ぐシリーズ二作目。平成のエラリー・クイーンという触れ込みに嘘偽りなく、ロジックに強いこだわりを感じる作品。なので、そういうミステリが好きな人にはいいけれど、そうでない人にとっては謎解きの部分が冗長に感じるかもしれません。


あらすじ

夏休み真っ直中の8月4日、風ヶ丘高校新聞部の面々は、取材先の丸美水族館で驚愕のシーンを目撃。サメが飼育員の男性に食いついている! 警察の捜査で浮かんだ容疑者は11人、しかもそれぞれに強固なアリバイが。袴田刑事は、しかたなく妹の柚乃に連絡を取った。あの駄目人間・裏染天馬を呼び出してもらうために。“若き平成のエラリー・クイーン”が、今度はアリバイ崩しに挑戦。

スポンサーリンク

徹底したロジックミステリ

本作の謎解きのやり方は一つ一つ段階を踏んで徹底的に可能性を潰していくタイプ。それが細かすぎて、しかも何度も同じこと確認したりします。

ある程度ミステリを読み慣れている人でないと、何をうだうだ言ってるんだと苛立ちを覚える可能性もあります。玄人好みといいますか、どんでん返しによってカタルシスを得られるタイプのミステリとは違います。

長編なのに殺人事件が一つしか起きなくて、それをじっくりと解決していくので、ストーリーの起伏はとぼしいです。ロジックミステリが好きだから徹底的にやってみた、そんな印象を受ける作品でした。

ただ事件自体にインパクトはあります。何せサメの水槽に飼育員が落ちて食べられてしまうのだから。海ではなく水族館ですからね。ジョーズもビックリです。ミステリ小説のフックとしては、かなり良い感じです。

前作でも思ったことですが、小物の使い方にセンスを感じますね。今回も誰もが日常的に使っているある物が、トリックに使われています。こういう小物のチョイスが非常に上手いと感じます。

よく知っているものだから、何か良いんですよね。親近感じゃないけど、ああ、それをそう使うんだと、理解しやすいし、より意外性を感じやすくなっています。

スポンサーリンク

キャラや設定は今っぽい

キャラクターにライトノベルのようなところがあって今流行りの感じですね。若者向けで非常に読みやすいと思います。でも実は、意外と人を選ぶ作品なんじゃないかと思ったりもします。 

ライトノベル的なコミカルさが好きな人は、ロジックの部分を冗長に感じ、ロジック好きな硬派な本格ファンは、ライトノベル的な部分が嫌・・・なんてことに成りかねないんじゃないかと。余計なお世話かもしませんが、心配になったりします。

著者はライトノベルと本格ミステリの融合を試みているような気がします。ライトノベルが好きな人と本格ミステリが好きな人とでは、それぞれ求めているものが違うと思うので、この試みが上手くいくかどうか興味深いところです。

犯人の動機について

事件のロジックに対する不満は特にありません。ただ、事件が一つだけなので、小粒な印象を受けるのは否めませんね。犯人の動機については捻りがありました。

ロジックもさることながら、本作は犯人の動機が印象に残りますね。ネタバレになるので書けませんが、異常者の倫理というか、異常なのに正しいと信じている感じ、これにはゾッとしますね。

こういう系は別段珍しいわけでもありませんが、趣向が凝らされていたと思います。それにしても、こんな思考の人が実際にいそうで怖い。事件のニュースなんかを見ていると、そう思うことがたびたびあります。

このシリーズはおそらく続いていくでしょうから、次はどんな作品になるか楽しみです。ロジック重視の青春ミステリ小説。良いと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました