感想 ★★★★★
犯罪小説としても、青春小説としても素晴らしい傑作。読了した後、ただ面白かったで終わるのではなく、考えさせられること必須。読んで損はない作品。
エンタメ小説として楽しめるのはもちろん、純文学として読むこともできます。罪を犯した事に苦しむ主人公と言えば、ラスコーリニコフが有名ですが、本作の櫛森秀一も負けてはいません。
ドストエフスキーの『罪と罰』を読む人はなかなか居ないと思うので、本書をおすすめします。昔に書かれた『罪と罰』よりも読み易いのは間違いないし、それでいて負けず劣らずの良さを体感できます。
あらすじ
湘南の高校に通う櫛森秀一は、母親と妹の親子三人で仲良く暮らしていた。そんな平和な日常に突如、不穏因子が訪れる。離婚した元旦那の曾根が家に居座るようになったのだ。
秀一はそのことに不快感を抱いていた。母親と妹を守れるのは自分しかいないと考えた彼は、秘かに曾根を抹殺する計画を立てる。
完全犯罪に挑む少年の、愚かしくも悲しい物語。
感想
十七歳の少年が殺人を犯すことを決めた動機と、その過程が丁寧に描写されていて、だんだん秀一に感情移入していきます。
曾根は最低の人物として描かれているので、一見すると秀一の行動はやむを得ないと感じる。だが、一歩引いて考えてみると、必ずしもそうとはいえません。
世の中にはもっと最低な人物はいるし、どんなに辛くても耐え忍ぶ生活を送っている人は多い。単純に殺すことを選んだ秀一は、ある意味で自分勝手で利己的と言える。
その点は『罪と罰』のラスコーリニコフとも共通する。
第二の殺人に至っては保身でしかない。にもかかわらず、秀一に同情してしまうのです。彼が犯罪を後悔する辺りで精神的な変化が感じられ、何だか悲しい気持ちになってしまうのだ。結末にもやるせなさを感じます。
犯罪を実行するまでの過程に関しては、倒叙ミステリの面白さがあります。詳細な計画を練り、完璧と思える方法で殺害します。
犯人視点で書かれているため、読者も秀一と同様に完璧と感じるのですが、些細なところに瑕疵があって、そこから犯罪が露呈してしまう。
どの点、何が理由でバレるのか、それが倒叙ミステリの醍醐味ですね。本書ではその部分でも楽しさを感じられ、ミステリとしての質も高い。
秀一が詰問されるシーンでは同じようにドキドキするし、ミスが判明シーンでは納得すると同時に絶望も感じます。
倒叙ミステリとしても、主人公に己を重ねる純文学として読んでも楽しめる傑作小説です。
あとがき
僕が初めてこの小説を読んだのは大人になってからでした。
読んだ時の年齢によっても感想が変わると思うので、できれば主人公と同年代の高校生のうちに読んでおきたい作品。
そして大人になってからもう一度読み返してみるのが、最高の読書体験でしょうね。
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