
感想 ★★★☆☆
軍艦島が舞台のファンタジーバトル小説。この作品は他の貴志祐介の作品と比べると多少見劣りしました。
廃墟として有名な軍艦島を舞台に行われる戦いということで、『クリムゾンの迷宮』のようなものを期待したのですが、そこまでの面白さはなかった。
とは言っても、設定は面白く楽しめたし、最後まで読ませる力はさすがでした。
あらすじ
プロ棋士の卵である塚田は、17人の仲間と共に見知らぬ場所で目覚める。仲間たちは人間とはかけ離れた異形の姿をしていた。
そして始まる突然の戦い。自分たちの他に敵グループがあることを知った塚田は、戸惑いつつも戦略を立てる。戦いが進むにつれて仲間の特殊能力が明らかになり、塚田はこの戦いが将棋に似ていることに気く。
相手チームのボスは塚田のライバル棋士であることも判明し、彼らは生き残りをかけた七番勝負を開始する。
感想
現実世界と異世界がリンクしている話。異世界の方で化物となったキャラたちが勝負を繰り広げます。
こういう特殊設定の勝負の話は好きなので、基本的には面白かったです。各キャラにはそれぞれ能力に特徴があって、それを活かして戦います。ゲームとかでありそうなチーム戦ですね。
この能力の違いで戦術を立て、それによって勝敗が左右する。あくまで戦術的な話で、この応酬は読み応えがあって興奮しました。
軍艦島という舞台設定もいいし、戦いのシーンは臨場感があります。勝負を描いた小説として良く出来ています。貴志祐介はこういうのを書くのが上手いですね。文章でしっかり情景が浮かんできます。
将棋やチェス、あるいは戦争など戦略がものを言う話が好きな人は、楽しめるに違いありません。
しかしながら、それが七回も続くとさすがにだれてしまいます。上下巻で600ページあってこの仕様なので、冗長に感じる部分があるのは否めないですね。
それと、たとえ死んでも勝負が一つ終わるたびに復活するので、スリルもないです。この辺りがネックになって今一つ熱中できなかった。
最後の落ちも少し残念。この設定を成立させるには、こうするしかなかったのは理解出来るものの、やはり残念に思ってしまう。
ところどころ面白い部分はあるものの、上記のような理由で全体的に見るとそれほどではなかったです。
もし貴志祐介でなく他の作家が書いたのなら、もっと評価していたし、違う作品を読んでみたいと思ったに違いありません。
数々の名作を残している貴志祐介にしては並の出来だと思います。
あとがき
設定は本当に魅力的だし、戦術的な要素も楽しい。同じことを七回繰り返しても持たせられるのはさすがです。
好きか嫌いかでいうと、かなり好きな小説。でも手放しで絶賛できるほどではない。個々の勝負にスポットを当てれば面白いですが、全体として見るとマイナス面もあります。
こういう話が好きな人は必ず楽しめる要素があります。それは確かなので、興味を持たれた方は読んでみることをおすすめします。



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