感想 ★★☆☆☆
七つの話が収められたホラー短編集。前回読んだ『忌録』と同シリーズのようなので読んでみました。残念ながらあまり楽しめなかった。興味を惹かれる部分もあったものの、話の出来に差があって面白味を感じないものもありました。
『忌録』には画像が挿入されていたり、好き嫌いはあれど意図している試みはわかりました。でも本書に関してはそれを読み取れなかった。残念。
おそらく考察すれば見えてくるものがあるんでしょうね。
あらすじ
『sign』
心霊スポットに関する話。〝開かずの家〟と呼ばれる場所へ肝試しに行った若者たちが、連続自殺してしまう。
『syndrome』
巫女だけが暮らす神社が崩壊するまでを描いた世にも不思議な事件。
『society』
沖縄で起きた宗教団体の集団自殺事件。
『fragment』
幽霊や呪いに関する伝承を集めた章。
『dogma』
戦後のバラックで見かけた白装束の男の行方を追う話。
『heresy』
縄文呪術とそれに関連する様々な事象の考察。
『circle』
謎の宗教団体を追う記者たちが体験する恐怖。
感想
本書には前作のような画像もないし、ネットへのリンクもありません。書き方は小説ではなく、インタビューを書き起こした感じ。
インタビュアーは登場せず、取材対象が一方的に喋っている形。基本的にキャラ同士の会話とかはありません。
ブログ形式の横書きの話や、座談会形式のものがあったりして、前作同様、実験的な部分もありました。
各話についてですが、小説を書くためのメモみたいな印象を受けました。本当に誰かからこういう話を聞いてそのまま記した、みたいな。どういうことか分からず終いで終わる話も多い。
着想に興味を惹かれる話はあって、だからこれを元にして小説にすれば面白そうとは思いました。本書はそうなっていないため、ネタには興味を惹かれるものの今一つ楽しめない、という感じでしたね。
でも『dogma』に関しては面白かった。この話はもっと読みたいと思いました。前作『忌録』に収録された『光子菩薩』との繋がりが感じられます。
もう少し詳しく内容を紹介すると、語り手は幼い頃にバラックで見た白装束の男を、ずっと忘れられずにいます。そしてある時、偶然目にした当時のカストリ雑誌に、その男について書かれているのを発見する。
当時のバラックでは〝御光(みひかり)〟なる宗教団体が暗躍していて、男はその信者だと判明。さらに詳しく知るため、他のカストリ雑誌を探し求める――といった具合に進んでいきます。
とても面白い設定だったし手法も嵌まっていました。これも普通の小説形式ではなく、エッセイと座談会の形で書かれています。リアルタイムで進行している感じを味わえて夢中になりました。
『光子菩薩』に登場した学者についての言及もあり、あの呪いのお札は、この宗教団体と何かしら関連があることを窺わせます。
ただ、結局曖昧なまま終わってしまったので消化不良。この話に関しては続きが読みたいですね。なんなら、『光子菩薩』と『dogma』を含めて一つの小説にしてほしいくらい。
あとがき
本書を通じて一貫しているのは、呪いが細菌やウイルスの仕業ではないかと、示唆している点。そして沖縄が重要な場所とされている気がします。
著者の阿澄思惟について、僕は知らなくてアマゾンレビューで知ったのですが、〝アラン・スミシー〟なる名称があるようですね。
これは映画用語で、何か事情があって監督名が明かせない際に使われる名前だそう。作者がここから名前をとったのは明らかですね。
そう考えると、映画に造詣の深い三津田氏の別名という可能性がより高まった気がします。
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