感想 ★★★★☆
まさかこういったイラストと筒井康隆という文字を同時に見る日がくるとは、夢にも思っていませんでした。
あの筒井康隆がライトノベル? と最初は驚いたものの、その後むくむくと興味が湧いてきました。
あらすじに21世紀の『時をかける少女』と書かれていたので、同じように爽やかな作品かと思ったのですが、目次を見てすぐにそうではないと気づきました。
すべての章タイトルにスペルマとついているのだ。
僕はライトノベルを読んだことがないので、他の作品と比較することはできないし、そもそもどういう作品がライトノベルらしいのかも、今ひとつわかりません。
萌え系イラストが描かれた中高生向けの小説といった程度の認識しかない。
本作でも表紙のようなイラストが挿絵として使われているので、そういう意味ではライトノベルと言えます。
でも僕の読み終わっての感想は、いつもの筒井康隆だったという一言につきます。エロくないエロ描写と皮肉がたっぷりと込められた作品。
筒井康隆を知らない中高生が、普通のライトノベルと思ってこの小説を読んだなら、大火傷してしまうでしょう。
あらすじ
生物部に所属する学園一の超絶美少女ビアンカ北町は、放課後になると実験室に行き、生殖についての研究を行っていた。
部員はビアンカと千原信忠の二人しかいない。千原はめったに実験室にこないので、彼女はいつも一人だった。
そこへビアンカに憧れを抱く塩崎と、ビアンカと双璧をなす美しさの陽子が加わり、三人で研究するのが彼女たちの日課となる。
そんなある日、千原が実は未来人であることが判明する。彼がタイムスリップしてきた理由は、未来で異常繁殖してしまったカマキリを駆逐する方法を見つけるためだった。
無事その方法を発見するビアンカ一向。それは現代に生息するアフリカツメガエルを繁殖させ、カマキリを食べさせるというものだった。
その繁殖作業を手伝うためにビアンカの妹ロッサも加わる。
かくして、ビアンカたち四人は千原とともに未来へ行き、人類を救うための戦い、カマキリ駆逐作戦を決行する。
ネタバレ感想
前半部分はビアンカたちの放課後が描かれる日常もので、後半からSFへと急展開します。
日常ものといっても、精子を取るために女の子が抜いてあげたり、人工授精を試みたりと、やっていることはもうむちゃくちゃw。
むちゃくちゃでありながら、授精の方法などは真面目に書いているので、いったいこれは何なんだと笑ってしまう。
未来へ行ってのカマキリ退治は、さほど苦労せずすんなり解決します。そういう対決の面白さを描こうとはしていません。
本作がなぜ筒井康隆らしいと思ったかというと、真面目に悪ふざけしているから。現代に対する皮肉がふんだんに込められています。
例えば未来が衰退した理由を語る部分。
原発による『想定外の事故』が開発途上国で相次いだ。脱原発という声が高まり、石油エネルギーを多用した結果、地球温暖化が促進され地表の大半が水没してしまった。
などなど、これらの理由は皮肉以外の何物でもない。
男に対する描写も酷い。登場するのは弱い男ばかりなのです。
アニメに出てくるような美少女が目の前にいても、ただ見ているか、こっそりと尻を触るか、オナニーするかのいずれかで、積極的な行動がとれないのです。
まるでアニメやゲームに嵌まるオタクたちを揶揄しているかのようだ。
あとがき
筒井康隆がライトノベルを上梓したのは、数多くの情報に溢れ何かと忙しい若者たちに、上記のような皮肉を行うためでしょう。
発行部数も多く若い世代に人気のライトノベルは、かっこうの媒体だったというわけです。
ライトノベルの体裁でいつもの通りのことをやったら、どういう反応が返ってくるか。その実験的な意味もあったかもしれませんね。
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