感想 ★★★★★
中世エジプトを舞台とした壮大な物語。
文庫で三冊に分冊されるほど長い作品で、時間を忘れて作品世界にのめり込めます。
日本推理作家協会賞とSF大賞をダブル受賞しているが、個人的にこの小説はファンタジー小説以外の何物でもないと思う。
何故この二つの賞を受賞しているのかよくわからないですね。面白いことに間違いはありません。
あらすじ
フランス軍の侵略が目前に迫ったカイロの話が大枠になっていて、その中に三つの話が作中作の形で挿入されています。
フランス軍からカイロを守るために、主人公アイユーブは災いの書を作成して、フランス軍を率いる将軍ナポレオンを幻惑させることを目論む。
その災いの書の内容は夜の種族が語る三つの数奇な話で構成されます。
1、妖術師アーダムと蛇神ジンニーアの話。
2、精霊の眷属の一族に拾われたファラーの話。
3、クーデターにより両親を失った王家の息子サフィアーンの話。
この三つの話の主人公が巡り合って、最終的には一つの大きな物語として収斂し、大団円を迎える。これが災いの書の内容。
この災いの書を作成している間にも、フランス軍は着々とカイロに進行しており、カイロの軍隊はフランス軍に虐殺されるだけで、食い止める手立てはない。
アイユーブの災いの書だけがカイロを救う唯一の希望となる。
はたして書の作成は間に合うのか、それともカイロが滅亡するのが先かという逼迫した状況に陥るのだった。
感想
本作が凄いのは、作中作で語られる三つの話のどれもが魅力的で面白いところ。それぞれの物語を、一つの作品として出版できるレベル。
それが最終的に交わって迎える結末は壮大でありファンタジック。構成がすばらしいですよね。よくこんなに上手くまとめ上げたものです。
その構成力に脱帽します。
しかし、大枠であるカイロの話を何故このような結末にしたのかわからない。
ミステリー的な驚きをもたらしたかったのかもしれませんが、この作品にそれは必要なかったんじゃないかなあ、と個人的に思いました。それでも満足ですけどね。
三つのレベルの高いファンタジーを楽しめて、一つの小説としての完成度も高いので、評価が高いのも頷けます。
ファンタジー小説の傑作と言って過言ではないでしょう。
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