感想 ★★★☆☆
第二十二回鮎川哲也賞受賞作。
様々なミステリの新人賞がある昨今、広義のミステリを募集するものが多い中、鮎川哲也賞は本格ミステリに並々ならぬこだわりをもっていることで有名。本作は荒削りながら鮎川哲也賞にふさわしい作品でした。
あらすじと構成
どしゃ降りの雨の日、高校の旧体育館で放送部の部長が何者かによって殺害された。 現場となった場所は完全な密室。容疑者となったのは死体発見時、その場に居合わせた卓球部の部長。
無実を訴える部長を救うために、部員の柚乃は校内一の頭脳を誇るアニメオタクの裏染天馬に協力を仰ぐ。天馬は現場に残された些細な点から、次々と推理を展開し犯人に迫っていく。
構成はオーソドックスな起承転結。
起で死体が登場。
承で関係者に話を聞いたりなどの調査。
転で推理ミス。
結で謎解き。
物語の構成法の基本に則っていて、途中でだれることもなく読みやすい作品でした。
※以下、ネタバレありなので未読の方は注意して下さい。
こんな記事もあります。
ロジックについての考察
些細な矛盾から推理を展開して犯人を指摘する本格ミステリの形式に、真向から挑んだ意欲的な作品。エラリー・クイーンや有栖川有栖が好きな人はきっと気に入るでしょう。こういう作品を書くには独特のセンスが必要となるはずなので、これからに期待したい作家さんです。
どこに矛盾をもってくるか、そこからどのように展開していくか、その辺りの目の付けどころが上手かったです。本作では現場に残された傘、それとリモコンスイッチが重要なアイテムとなっています。
「あ、そうか」と思わされる時が何回かあって読んでいて楽しかった。ただ、論理について強引に感じるところが3カ所かありました。
1つ目
単行本299ページの〝第四の条件・男子であること〟を説明する個所。
ここで天馬は現場にあった傘は男物だから女ではないと言っているが、これはちょっと安直過ぎると感じた。ブランド物の黒い傘なのだから、別に女性が持っていても不自然ではないでしょう。女性だから赤やピンクじゃなきゃダメなんてことはない。
二つ目
犯人はリアカーに乗って密室から出ているが、なぜリアカーを動かした二人の演劇部員は違和感を覚えなかったのでしょう。
天馬は四人から二人になったので、重さの違いに気づかなかったのも無理ない、と簡単に説明しています。だが、本当にそうでしょうか。犯人は男なので体重六十キロ以上はあったはず。それだけ重くなっても、気づかないなんてことあるんでしょうか。
まあ、でもこれは実際にやってみないと何とも言えませんね。実際にやってみると気付かないものなのかもしれない。だから不自然ではないのかも。
三つ目
犯人が上手のドアに鍵をかけたのもよくわからない。ドアの外に誰かいることを知って、パニックになったためそうしたと説明されています。しかし、殺害現場を見られた可能性が高いのだから、すぐにその人物を捕まえようとするのが、犯人の心理としては自然ではないでしょうか。
キャラクターについて
探偵役の裏染天馬の設定がちょっと狙いすぎていると感じました。イケメンで毒舌でアニメオタクというのは、なんだか流行っているものを寄せ集めたみたいな安っぽい印象を受けました。
アニメネタも多すぎかなあと感じました。キャラクターを際立たせるためだとしても、要所要所でやれば充分ではないでしょうか。でも、詳しい人ならクスッとなるかもしれませんね。
それと、偉そうに刑事のまねごとをする裏染に対して、生徒たちはなぜ誰も反感を抱かないのでしょうか。これは不自然に感じましたね。
裏染みたいな変わった人間がそんな目立つ行動をすれば、良く思わない人間も出てくるはず。それなのに、みんな当たり前のように彼に言われるまま証言しています。学校での人間関係というのはもっとデリケートで複雑なものだと思うのです。
総評
考察というか、難癖?をいろいろつけてしまいましたが、惹かれるものがあるのは事実です。最近の新人ミステリ作家は小粒な印象があるので、青崎有吾氏には期待したいところです。
なかなか刊行しないことで有名な東京創元社が、立て続けに新刊を出しているので、出版社も期待しているのでしょう。ぜひとも頑張ってもらいたいものです。
コメント