感想 ★★★★☆
『アイルランドの薔薇』でデビューしたミステリ作家・石持浅海の長編第二作。
ところどころ納得いかない点はあったけれど、ミステリとしての完成度は高かった。人間の機微を描く小説ではなくて、謎解きに主眼を置いたミステリなのでこれで問題ないでしょう。
次々と何らかの事件が起き、展開にスピード感があります。最後まで飽きずに読むことができました。エンタメ小説として充分楽しめます。
あらすじ
沖縄の那覇空港で乗客240名を乗せた旅客機がハイジャックされた。犯人は三人の男女。彼らの要求は警察に捕まっている自分たちの師匠を空港まで連れてくること。
無事ハイジャックに成功した犯人たちだったが、機内でトラブルが起きる。密室状態のトイレで血まみれ女性の死体が発見されたのだ。
いったい誰が彼女を殺したのか、その理由、方法を犯人たちは推理する。だが、彼らには警察との交渉もあるし、乗客を監視しなければならない。
そこで乗客の中から頭脳明晰な人間を選び出し、彼にこの謎を解くことを強要する。
はたしてこの事件の真相とは。そしてハイジャックの行方は――
感想
著者が得意とするクローズドサークルのミステリ。
クローズドサークルの場合、警察が介入できない状況を、どうやって作り出すかがポイントとなります。本作ではその点が上手かった。
〝ハイジャックされている機内で不可能犯罪が起きる〟
この設定を思いついた時点で勝ったも当然ですね。これほど魅力的で無理のないクローズドサークルの設定は、なかなかお目にかかれない。
トイレでの事件について書いておきます。
本当ならすぐに犯人がわかってしまうはずですが、ある描写によって騙されてしまいました。
これによってある人物を、犯人候補から除外した人は多いのではないでしょうか。解決部分でこの描写に嘘がなかったことがわかるので、アンフェアともいえない。
難点をあげるならやはり動機の面でしょう。
狂人には狂人の理論があるからそれはいいとして、犯人たちの目的である師匠に魅力がなかったのがよくない。カリスマだと煽っておきながら、あれだと説得力がないし、一気に興ざめしてしまいます。
あとがき
細かい弱点が他にもあって傑作と呼ぶのはためらいますが、秀作であるのは間違いありません。ハイジャック事件と密室殺人が同時進行するストーリーは見事。
間違いなく面白い作品。おすすめです。
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