青春ミステリシリーズの第三弾『冬空トランス』長沢樹

感想 ★★★☆☆

消失シリーズの第三弾。前二作と違って今回は短編集となっています。

『モザイクとフェリスウィール』は短編で『冬空トランス』と『夏風邪とキス以上のこと』は中編くらいの長さ。

各作品はどれも、前作『夏服パースペクティブ』に登場した映研部部長の遊佐歩が語り手となっており、探偵役はかわいすぎる名探偵こと、樋口真由が務めます。

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あらすじ

『モザイクとフェリスウィール』

遊佐と樋口の出会いを描いた作品。樋口が観覧車で撮影したPVの撮影手法を暴けるか、というもの。 PVには通常では撮影不可能なシーンがあって、そのシーンをどのように撮ったのかを遊佐があれこれ推理する。

『冬空トランス』

あるバンドのPV撮影に参加した遊佐と樋口が殺人事件に遭遇する。 密室状態の教室からの転落事件で、自殺として処理されそうなところだったが、樋口の鋭敏な頭脳はそれが殺人であることを見抜く。

この作品は犯人側からの視点も挿入されていて倒叙ミステリのようなところがあった。

『夏風邪とキス以上のこと』

樋口に絶体絶命のピンチが訪れる。密室状態の放送室に閉じ込められてしまったのだ。はたして樋口は無事脱出することができるのか、という趣向の作品。

 

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トリックについて

有りか無しかは置いといて、ちゃんと考えられていると思います。

青春を描くのがメインでミステリはおまけ程度、というよくあるタイプとは違い、ミステリをやるんだという気概が感じられます。

『冬空トランス』のトリックはなかなかユニークで一見の価値があります。おそらく本格ミステリを読み慣れている人なら、そこまでとんでもトリックとは思わないんじゃないでしょうか。

『モザイクとフェリスウィール』の撮影手法も面白かった。映像関係に詳しい著者らしいトリックで、驚くというよりも、そういうやり方もあるのかと感心しました。

 

青春小説として

このシリーズは語り口がライトなわりにヘヴィーな問題を扱ってます。それが顕著に発揮されているのが表題作の『冬空トランス』。

他の二つは日常の謎的な感じで肩肘張らず読めます。どの作品も学校が舞台で学園ミステリを読んでいる気分を存分に味わえます。

『冬空トランス』では高校生の複雑な男女の関係を描いていて、それが結局殺人事件にまで発展してしまう。なんとも利己的な事件です。

登場人物たちの思いにすれ違いがあって後味は良くない。けれど、その分読みごたえもありました。

本作からいきなり読むのはやめた方が無難です。登場人物の設定とか関係が複雑なので、過去作品を読んでからの方が混乱がないです。

そして青春ミステリといっても、設定は重かったりするので、爽やかで軽い感じを期待するなら他を選んだ方がいいですね。

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