『invert 城塚翡翠倒叙集』相沢沙呼 あらすじと感想 ネタバレあり

感想 ★★★★☆

ミステリ賞五冠を達成し話題をさらった『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の続編。最近ドラマ化され、再び話題となっていますね。

ドラマは本日(2022/11/13)が最終話となっていますが、『medium』が最終話でそれから『invert』の話に移行するんじゃないかと予想しています。『invert』はまったく違うスタイルなので、一先ず最終話とするのも頷けます

それに調べてみると、千和崎真を演じる小芝風花さんは主役級の女優さんとのこと。千和崎真はこれまでチョイ役程度しか出ていません。そんな役を主役級の女優が引き受けるものなのか、という疑問もあります。

でも『invert』もやるのであれば、それも納得。『invert』では千和崎真が大活躍するので。ということで『invert』に続くと予想しているわけです。

ただその場合、『信用ならない目撃者』を映像化するのが困難だと思うので、どうなんでしょう。案外、普通に終わりの可能性も高そうですが……今夜が楽しみですね。

さて、本書は超話題作の続編ということで難しい部分もあったと思いますが、期待を裏切らない良作でした。前作ほどの衝撃はありませんが、概ね満足。ただ、細かい点で素直に納得できない部分もありました。

※ あとがきの後にネタバレがあります! 未読の方はご注意下さい。

 

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あらすじ

『雲上の晴れ間』

プログラマーの狛木は、同級生でもある社長に長年恨みを抱いていた。遂に耐えきれなくなった狛木は、綿密に殺害計画を練り実行に移す。計画通り犯行を終え、事件は事故として処理されようとしていた。

もし仮に殺人だと判明しても、狛木には鉄壁のアリバイがある。完全犯罪を達成したと安心していた時、狛木の隣に城塚翡翠と名乗る美しい女性が引っ越してくる。彼女と親交を深め、人生が上向いたと狛木は上機嫌になるのだった。

『泡沫の審判』

正義感の強い小学校教師の末崎絵里には、どうしても許せない相手がいた。校内にカメラを仕掛ける盗撮犯だ。子供たちを守るため、絵里は殺害を決意する。
 
計画通り事故として処理されようとするも、臨時カウンセラーとしてやって来た城塚翡翠によって、徐々に歯車が狂い出す。

『信用ならない目撃者』

元刑事で探偵会社社長の雲野は、裏で数々の悪事を働いて来た。部下にそれを暴露されそうになり、殺害を決意。元刑事である雲野は、完璧に実行する自信があった。捜査方法を知り尽くしており、証拠を残さないための知識もある。

実際、雲野の犯行は完璧で、犯行を示す証拠は一切出てこなかった。唯一の気掛かりは目撃者の存在。だが、目撃者は遠く離れた場所から一瞬見ただけであり、酩酊状態でもあった。そのため、問題にならないはずだった。

しかし、城塚翡翠なる人物が警察と共に現れ事態は変化する。雲野は城塚翡翠が警察の秘密兵器である霊媒探偵と見抜く。それでも雲野には絶対の自信があった。かくして、二人の頭脳戦が幕を開ける。

 

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感想

三編ともすべて倒叙形式で書かれています。なので基本的には犯人視点で話が進み、合間に城塚翡翠と千和崎真のパートが入ります。

この二人のシーンがラノベ感満載でちょっと戸惑いました。まるで十代の学生のようなノリで、この二人ってこんな感じなのかと。必要なパートなのですが、ちょっと戸惑いを覚えたのも事実。
 
ミステリに関して言うと、倒叙なので犯人は最初から明らか。何が原因で犯行が露呈するかが焦点となります。

犯行パートを読んでいると、何もミスがないように思えるのに、実際は穴だらけなのが面白い。倒叙形式の醍醐味ですね。『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』と同じスタイル。

本書は『古畑任三郎』のオマージュ的なところが多々あって、ドラマであったように解決編の前に翡翠が一人語りするシーンがあります。形を変えた読者への挑戦状ですね。

『雲上の晴れ間』と『泡沫の審判』はどちらもアリバイ崩しもの。トリックになるほどと思ったものの、そこまでの驚きは得られなかった。ストーリーは面白かったです。

この二つは前座で本命は『信用ならない目撃者』。証拠を一切残さないといえば、前作の犯人が想起されます。本作の雲野も、その点で言えば徹底しており、翡翠も苦戦を強いられる。天才vs天才の構図は読んでいて楽しい。

様々な技巧が施されていて読み応え抜群。最後まで何が証拠になるのか、どうやって逮捕するのかわからなかった。最後には驚きも待っていて満足です。

 

あとがき

倒叙ミステリとして非常に面白い作品集でした。長編や短編の倒叙ミステリはあっても、1冊まるごと倒叙ミステリなのは、意外と少ないような気がします。ドラマではコロンボや古畑があるんですけどね。

前作『medium』も、霊感で早い段階に犯人が判明したりするので、ある意味倒叙ミステリ的なところもありますね。そういう意味でもユニークなシリーズ。

倒叙ミステリが好きな人も前作を読んだ人にもおすすめです。

 ※ これ以降ネタバレがあります。


 
 

ネタバレ

最初に書いたように、細かい点で気になるところがいくつかありました。

まずは『泡沫の審判』でのライトに関するくだり。スマホをライトに使ったという話になり、被害者は軍手をしていたのでそれはありえない、という結論になりました。

最初読んだ時は「あ、なるほど、面白い着眼点だ!」と唸らされました。でも冷静に考えて見ると、そんなに難しいとも思えない。

軍手を脱いで、スマホを操作して上着の内ポケットにしまい、また軍手をして逃走――。文字で書くと手順が多く無理なように感じるけれど、実際やってみると10秒もかかりませんでした。

作中では『どう考えても、ありえない』と書かれています。そこまで強く断言されていると若干引っかかりますね。上記に書いたように10秒かからないくらいだし、逃げながらでも可能です。

これは翡翠が殺人事件と判断した根拠として書かれるので、気になりました。着眼点が面白いので不満はありませんが。

次は同じく『泡沫の審判』での警報の件。ハムスターを使ったというのは、こちらも着眼点は面白い。でもさすがに偶然に頼りすぎじゃないかと思う。

例えケージが空いていたとしても、外に出るとは限らないし、まして廊下まで出るとなるとさらに可能性は低くなる。

これが訓練された犬とかなら別ですが、小動物だと気になってしまう。小動物の偶然の行動に頼るのは、ご都合に感じてしまいます。警報が大事な要素だったので、こちらも引っかかりました。

最後に『信用ならない目撃者』について。最後のどんでん返しを半ば予想できてしまいました。驚愕するのではなく、やっぱりそういうことか、となってしまい驚けなかったのが残念。

どのページか忘れてしまったけれど、翡翠に関する描写で〝背の高いスラリとした体型〟的なことが書かれていました。

ここで強烈な違和感を覚えてしまったんですよね。ずっと小柄な印象で読んでいたので「え?」と思って、読み間違い、もしくは書き間違いかと思ったほど。それで何となく入れ替わりを予想できてしまった。

僕と同じように、この点で気付いた人も多くいるんじゃないでしょうか。ちょっと分かりやすかったように思います。

それと、靴下に血を付けるって犯人おっちょこちょい過ぎでしょう(笑)。あれだけ証拠を残さないことに拘って、冷静な男と書いておいて、それには笑ってしまいましたよ。

ソファの下に残された靴下に関しては、僕もすっかり忘れてて「あっ」と思わせてくれたのに。

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