『クライマーズ・ハイ』横山秀夫 歴史的事故について書かれた骨太小説

感想 ★★★★★ 

本書は日航機墜落事故について書かれた小説で、主人公は新聞社の記者。その記者の眼を通して事故の一部始終が語れます。

事故の重大さはもちろん、新聞社の人間関係や記者魂にとてもリアリティーがありました。どういう理念をもって、どんな人たちが新聞を作っているのかがよくわかります。

そういう意味で企業小説としても読むことができます。非常に読み応えのある作品。すべての人におすすめですね。

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あらすじ

1985年、日航ジャンボ機が群馬県の御巣鷹山に墜落した。地元新聞社の北関東新聞は、過去に類をみないこの未曾有の事件に奔走する。

全権デスクを任されることになった悠木は、後輩記者と上司との板挟みに合いながら、地元新聞社がなすべきことは何かを必死に考え紙面を作っていく。その一方で、一緒に山に登る約束をしていた同僚の安西が倒れ病院に搬送される。

悠木は組織内の軋轢や安西に関すること、さらには息子との関係に苦慮しながらも、新聞、報道のあるべき姿とは何なのかを模索する。

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感想

日航機墜落事故は1985年8月12日に実際に起きた事故。乗員乗客524人のうち、死亡者数520人、生存者4人という悲惨な事故で、単独機の航空事故としては世界最多の死亡者数です。

前代未聞のこの事故は世の中に大きな衝撃を与えました。当時、著者の横山秀夫は群馬県の上毛新聞で記者をしていました。

本作は事故から18年経たった2003年に刊行されたわけですが、それだけの年月を経ないと書けなかったということからも、どれほど大きな事故だったかが窺えます。

物語が進むにつれて主人公はさまざまな葛藤に苛まれます。仕事では上司や部下との関係に悩み、家庭では息子との関係に悩まされる。

組織に所属する会社員が読んだなら、主人公の悠木の苦悩を我がことのように感じられ、共感することでしょう。そして、悠木が下すさまざまな決断に対しては評価が別れそうです。

本作はその当時の男の世界を描いた話なので、今の人が読んでどう思うかも興味深いところ。

他人の悲しみを自分のこととして悲しむことができるのだろうか?〟 

主人公の悠木が語るこの心情を目にした時、僕は思わず考え込んでしまいました。普段、新聞やニュースなどでたくさんの人間の死に触れています。その時にいったい何を感じているだろう。

何の感情も抱かずにただ読み流しているだけではないだろうか。報道で事件や事故を目にするのは、極当たり前のこととして何も感じていない。

そんな自分に気づいてふと恐ろしくなった。報道されているのは、その報道のために用意された登場人物などではなく、いろんな経験をして、歴史を積み上げてきた一人の人間の死なのだ。にもかかわらず、そのことを忘れてしまっていた

本作『クライマーズ・ハイ』を読んでいると、考えさせられることが多々ありました。

あとがき

僕にとって本書はさくさく読めるタイプの小説ではなかった。

事故について調べてみたり、悠木が選択を迫られるシーンでは、もし自分ならどうするだろうと考えたりと、途中で何度も手を止め、あれこれ考えてしまう小説でした。

小説の好みは人それぞれですが、誰が読んでも何かを感じられる小説であることは間違いないです。

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