感想 ★★★★★
独自の世界観で人気を博した前作『少年検閲官』の続編。物理トリックに並々ならぬこだわりを持つ著者らしい作品に仕上がっています。
なぜ面倒な物理トリックをわざわざ使う必要があるのか、本作はその命題に真っ向から挑んでいるようでもあり、著者のプライドを感じさせました。
ストーリーに読み応えもあり満足度は高い。ファンタジックな設定に抵抗がなければ、読んで損はないです。
あらすじ
恩師のもとに向かっていたクリスは、何者かに追われている盲目の少女ユユと出会う。それから始まる二人の逃避行。そして、もうダメかと思った時に、前作に登場した友人エノが登場する。
その後、様々な事情によってクリス、エノ、ユユの三人は、ガジェットが隠されているとされるカリヨン邸に向かう。
カリヨン邸は孤島の廃墟で、そこでは音楽をこの世に残すために、職人がオルゴールを作り続けている。
ユユが抱える問題を解決するには、ガジェットを見つけることが必須で、彼らは捜索を開始。だが、その間に屋敷では不可解な連続殺人事件が発生し、隠されていた闇が次々と明らかになっていく。
ミステリについて
トリックについては1つ1つを見ると地味ながら、最後に真実が見えた時の驚きはなかなかのもの。ちゃんと納得させてくれるし、意外性もあります。
地味なトリックといえども、犯人は大変な作業をこなしており、とある事情がある犯人にこれらが本当に可能だったのかは少々疑問。
それにしても、トリックは出尽くしたと言われる中で、よくこれだけ物理トリックを思いつけるものです。その拘りは尊敬に値しますね。
ストーリーについて
前作との大きな違いとして、ユユの存在があげられます。彼女がいることで物語に彩りが加わっていました。
言ってみれば少年と少女のボーイミーツガールなので、ミステリファン意外の人が読んでも楽しめるのではないでしょうか。
『天空の城ラピュタ』じゃないけれど、退廃的な世界での少年と訳あり少女の出会いは、やはり魅力的な要素といえます。連続殺人を書いた本格ミステリながら、この二人の部分はピュアで終わり方もきれいです。
もともと漫画的、あるいはラノベ的なところがあるので、若い人に特に好まれそうな気がします。とてもキャラ立ちしてるんですよね。
あとがき
ファンタジーを舞台にした本格としては、一番好きかもしれない。世界観がとても好みです。この世界観を構築した上で物理トリックですからね。
おそらく北山猛邦にしか書けないでしょう。
問題はこの独特な世界観に入って行けるかどうか。合う合わないはあると思います。
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