ハルチカシリーズ第二弾『初恋ソムリエ』 初野晴 

感想 ★★★☆☆

吹奏楽に打ちこむ高校生の上条ハルタと、穂村チカが活躍するハルチカシリーズの第二弾。軽快な文体で語られる日常は、爽やかな青春ミステリ小説そのものでありながら、扱う事件が意外にも重いのが本シリーズの特徴。

第二作となる本作は、前作で高校一年生だったハルタとチカが二年生に進学していて、春から夏までの様子が描かれます。

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あらすじ

『スプリングラフィ』

音楽エリートの芹澤直子に仲間になってもらおうと奮起する話。成績が急にがた落ちした理由など、彼女についての不可解な点が謎となっているが、ミステリという感じではなく、この短編は本書を通してのキーパーソンである芹澤直子の自己紹介となっている。

『周波数は77.4MHz』

地学研究会の部長を務める麻生美里は常にヘルメットを被っている美貌の少女。彼女たちの研究会は珍しい鉱石を発見したにも関わらず、発掘せずに調査を止めてしまう。はたしてその理由とは。

『アスモデウスの視線』

とある事情があって他校の事件を調査することになったハルタとチカ。あるクラスでわずか一月の間に席替えが三回もあって、尚且つ、担任が自宅謹慎になるという事件が起きた。張本人である担任教師は口を固く閉ざして理由を話さない。ハルタとチカは教育実習で問題のクラスに来ている先生から詳細を聞き、事件の謎を解く。

『初恋ソムリエ』

初恋研究会なる怪しげな部に芹澤直子の叔母が調査を依頼した。叔母のことを心配した芹澤にせっつかれて、いつもの二人も調査に参加することに。叔母の初恋ははたして本物だったのか。幻想的に語られる思い出話から浮かび上がった事実は、その時代のなせる痛ましくもひたむきな想いだった。

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青春小説としての魅力

個性的なキャラクターが数多く登場する本シリーズ。この作品でまた新たなキャラクターが加わります。ミステリの形式をとっていますが、普段ミステリを読まない人でも、青春小説として楽しめます。

なぜなら、主人公たちには吹奏楽の全国大会である『普門館』を目指すという目標があるからです。それが全編を通しての基本的な流れなので、部活もの小説としても楽しめるのです。

ハルタとチカのやり取りはコミカルだからライトノベル感覚で読めます。その一方で重い問題を抱えた新キャラが登場するため、ただコミカルなだけで終わりません。十代の若者たちの群像劇として、青春小説らしさを感じられる物語です。

ミステリとして

形式は連作短編集。すべての話に一応謎があるものの、ミステリという感じがしない話もあります。反対に本格ミステリに慣れ親しんだ人でも唸るような話もあり。

僕が一番面白かったのは『アスモデウスの視線』。コアなミステリファンも納得する良く出来たストーリーだと思います。真実が明らかになった時、手放しで納得しました。感動的でもあり間違いなく秀作。

『スプリングラフィ』と『周波数は77.4MHz』の二つは、ミステリとしての面白さを感じられるタイプではなかった。とはいえ、つまらないというわけではない。普門館を目指す本筋においては、重要なエピソードで楽しめます。

重い話という意味では『アスモデウスの視線』と『初恋ソムリエ』がそれにあたります。まあ、重いというより、ドラマ性が強いという方が正解でしょうか。表題作の『初恋ソムリエ』に関してはそこまでの感慨は得られませんでした。

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