感想 ★★★☆☆
動物園を舞台にしたミステリ小説。文庫の表紙とあらすじを見て、ゆるい感じの連作短編をイメージしていたら、なかなか深刻な事件の長編ミステリでした。
水族館が舞台のミステリは何度か読んだことありますが、動物園が舞台なのは珍しいのではないでしょうか。僕は今回が初めてです。
内容
イリエワニが盗まれる事件から始まり、その後ミニブタ、インドクジャクが盗難に遭う。いずれの動物も希少価値は低く、たとえ売ったとしてもたいした金にはならない。
いったい犯人は何が目的で動物たちを盗み出したのか、というのが本作のストーリー。
主人公はダチョウ担当の飼育員、桃本。『も』が三つも続き言い難いため、みんなからは桃さんと呼ばれている。小さい頃から動物に好かれる不思議な体質の持ち主。
彼が勤める動物園には個性豊かなメンバーが揃っています。
獣医の鴇先生は仕事のできる女医。普段は元気いっぱいの動物たちも、彼女に診察される時は大人しくなってしまう。そうしなければならないオーラを放っているのだ。
明るく愛想のいい新米飼育員の七森さんは、広報活動でテレビに出演したりする動物園のアイドル的存在。お客さんと小動物が接するふれあい広場を担当しており、子供たちから人気がある。さらに大人のファンまでついている。
爬虫類担当の服部君は、ミステリ好きの変人でそれは自他共に認めている。妙に感が鋭く、些細な変化にすぐ気が付く。そして博識。
そんな彼らが事件に放浪されながらも、日常の業務をこなしていく様子が描かれます。
感想
ちゃんと本格ミステリになっていたんですが、少し物足りなさを感じました。最初のワニ盗難事件が本格ミステリらしい状況で、この謎の解明が本作の肝になっています。
だから、ワニを盗んだ方法、そのトリックが作品の印象を左右します。これが小粒だったので、ミステリとしての満足感は得られませんでした。
真相自体よりも、真相の見せ方が上手くなかったのかもしれません。
動物園の裏側や飼育員が抱える問題にも触れていますが、そこまで掘り下げているわけではなく、あくまで軽い読み物という感じ。
動物園を舞台にした小説としては普通に楽しめました。ミステリとしてみると、卒なくまとまった平凡な作品という印象。あっと驚くトリックではないです。
あとがき
似鳥鶏さんの作品は今回初めて読みましたが、文章の書き方に癖がありますね。〇〇だが、〇〇。という逆説のセンテンスがとても多かった。これは本作だけなんでしょうか。読んでいて少し気になりました。
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