ファンタジー巨編 『図書館の魔女』感想 前半

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感想 ★★★★☆

とある国で巻き起こる陰謀劇を描いたファンタジー巨編。

設定をみると、魔法とか特殊能力が出てくるライトノベル的なファンタジーのように感じますが、実際は各勢力のパワーゲームを描いた政治小説です。
大雑把に言うと、覇権獲得を目論む敵国の陰謀をいかに阻止するか、という話。
地の文が多く、聞き慣れない読み方も頻出するため、設定からイメージするような軽めの作品を想像していると、読むのがしんどいかもしれません。ページ数も多いですしね。
長い物語なので、感想についても前半と後半に分けたいと思います。
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あらすじ

山奥の村で暮らす少年・キリヒトは、王宮からの要請で図書館の魔女と呼ばれる少女の助手になる。
少女の名はマツリカといい、彼女は高い塔と呼ばれる図書館の主。
マツリカは驚くほど頭脳明晰で、その能力は国のお偉方にも重宝され、国にとって無くてはならない存在。ただ1つ、彼女にはハンデがあって、言葉を発することができなかった。
キリヒトの役目は、彼女の声となって身の回りの世話をすることだった。
手話でのやり取りを交わす内、二人の絆は深まっていき、いつしかキリヒトはマツリカにとって欠かせない存在となる。
だが、キリヒトがマツリカの元へ招聘されたのは、それだけが理由ではなかった。他にも重大な任務を秘めていた。
一見すると国は平穏そのもの。しかしその裏では、着々と陰謀が企てられており、戦火が迫っている。
マツリカとキリヒト、そして図書館の面々はその陰謀を阻止すべく行動を開始する。
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感想

ファンタジー小説を読む際は、作品世界にとっぷりと浸かりたい願望があると思う。

そういう人にとって本作は最適と言えるでしょう。しっかり世界観が確立されているし、分量も申し分ありません。

その一方で長く感じる人もいると思います。
話の筋がなかなか見えてこないので、最初の方は僕も長く感じました。あれ、これはいったい何を描いた話なんだろう? となりました。

主人公の成長譚なのか、それとも恋愛なのか、どこに向かっているのか見えてこず、冗長な印象を受けた。
最初の方は主人公のキリヒトと、図書館の面々の人物紹介という感じで、それぞれがどんな人物なのか、結構なページ数が割かれています。
キリヒトとマツリカが親交を深める過程はとりわけ丁寧で、二人だけの小さな冒険に繰り出したりもします。
その様子が微笑ましいし、謎も出てきて面白い。マツリカがキリヒトを信頼するに至る過程なので、重要なエピソードでもある。
それから書物や言葉についての蘊蓄もあります。設定を加味するとこれも必要な描写と言える。
それは分かるけれども、話の筋を追いたい人が冗長に感じたとしても、不思議はないですね。
その後、話の筋が見えてくると俄然面白くなります。

政治、軍略、情報戦

中盤まで具体的なことは行われませんが、終盤に入ると本作が軍略的な話だと分かります。

戦争をするのではなく、いかに戦争を回避するか、落としどころをみつけるか、そういう戦略を描いた物語です。

なので、戦争や戦闘描写を期待して読むと、思っていたのと違ったとなります。最後の方で敵の刺客と戦うシーンがあるにしても、それが主眼ではありません。
長い話を読んで、自分が期待したのと違ったらショックも大きいので、そこだけは知った上で読んだ方がいいでしょうね。
利害の異なる各勢力をいかに納得させるか、この無理難題を達成するために誰を味方につけるか、誰をどのように動かすか、まるで将棋のように何手も先を読んで戦略を練ります。
こういう戦略的な話が好きな人におすすめ。

あとがき

本作が人気なのは、そういうタイプの話でありながら、キャラクター小説のような魅力があるからでしょうね。

キャラクターが立っている小説は多くあるし、策謀の面白さを描いた小説も多くあります。

ただ、この二つが合わさった小説となると、なかなか思い付かない。本作が唯一無二の小説たらしめる所以です。
正直、前半はそこまで面白いわけではないです。後半になると一気に話が動いて読みどころ満載になります。

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