『郵便配達は二度ベルを鳴らす』 ジェイムズ・M・ケイン

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感想 ★★★★★

キャッチーなタイトルが印象的なこの作品、実は郵便配達はまったく関係のない話です。内容は不倫カップルによる犯罪小説。

では、このタイトルはいったいどこから来たかというと、それは著者の友人の話から来ているらしい。なんでも、友人宅に来る郵便配達員はいつも二度ベルをならすため、ドアを開けなくても誰が来たかわかるというのだ。

それを聞いた著者は、自身の小説の中で起きる重要な出来事もすべて二度ずつ起き、しかも二度目で真実がわかることから、このタイトルがピッタリと判断したようです。

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あらすじ

物語の主人公は各地を転々としている流れ者のフランク。彼は何気なく立ち寄ったレストランにいたコーラという女性に一目ぼれをする。若くて美しい彼女はしかし、その店の主人の人妻であった。

その店で働くことになったフランクは、徐々に抑えきれないくらいコーラに惹かれていく。同時に彼女もフランクに心を奪われ、二人はついに関係を結んでしまう。

主人が邪魔になった二人は彼の殺害を計画し、それを実行に移すのだが――。

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感想

著者の長編デビュー作であるこの作品は大ヒットし、何度も映画化されました。ハードボイルド、あるいはノワールと呼ばれたりしますが、本人はそうやってラベル付けされるのは嫌っていたそうです。

発表されたのは1934年で今から81年も前のこと。それほど長い年月が経っていても、作品の持つテーマは普遍的なので古さはまったく感じません。今読んでも何の問題もなく楽しめます。読みやすくてページ数も少ないので、未読の方は迷わず読むのをおすすめします。

フランクとコーラが行うのは、決して許されない行為。なのに、読んでいるうちになぜか応援したくなってきて不思議でした。

例えばコーラの主人が最低な人間で、彼女を救い出すためというのなら、不思議でも何でもありません。でも、主人は普通に善良な人間で、彼らは完全に自分たちのエゴで殺害しようとするのです。

その場合、共感なんて抱かないはずなのに、この二人に関しては応援したくなってしまった。

これはフランクの人間性によるところが大きいのかもしれません。はたから見れば、彼は暴力を振るうのも厭わないタフで強い人間。しかしその内面は、自分の欲望を抑制することができない弱い人間なのです。

その心情がわかってしまうため、彼を否定することができない。フランクは罪を犯すけれども、そのことを後悔したりして人間味があるのだ。

流れ者のフランクに対して、コーラは地に足をつけて生きたいと願うタイプの女性。二人の意見はしばしば食い違い、離れたりもするのだが結局ひっついてしまう。

そんな彼らが迎える結末は自業自得であり、悲劇でもある。もしかすると、すっきりする人もいるかもしれません。僕は少し哀しい気持ちになりました。読み終わってもしばらくの間、後をひく。

あとがき

ラブストーリーとしてもクライムノベルとしても楽しめるし、さらに途中でミステリ的な仕掛けも施されていて、短いながらよく出来た作品。何度も映画化されるのも納得ですね。普遍的な内容です。

これからも読み継がれていくこと必死の名作。

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