感想 ★★★★★
海外ミステリのオールタイムベストや、ランキングなどでたびたび上位に食い込んでくる本作。確かにそれも納得の面白さでした。
ストーリーを見てもらえば分かる通り、この感じは日本の小説ではなかなか得られないです。ミステリと言っても本格ミステリのような謎解きタイプではなく、ハードボイルドな冒険小説です。
あらすじ
主人公は第二次大戦中にレジスタンスとして活動していたルイス・ケイン。彼は知り合いの弁護士から、ある人物をフランスからリヒテンシュタインまで運んでほしいと頼まれる。
その人物とは、婦女暴行の容疑がかかっている大企業の社長・マガンハルトで、時間までにリヒテンシュタインで開かれる会議に参加しないと会社が乗っ取られるという状況。
彼の婦女暴行容疑は無実で、会議に出席するのは正しいことをやるためだと確認したケインは、多額の報酬をもらえるその依頼を引き受ける。
ケインはマガンハルトのボディーガードとして選ばれたハーヴェイとコンビを組み、フランスから車で出発する。だが、リヒテンシュタインに辿り着くまでの道中で様々な困難に遭遇する。
フランスとスイスの警察からは追われるし、マガンハルトを殺そうとする殺し屋連中から彼を守らねばならない。はたして彼らは会議が開かれる時間までに、無事リヒテンシュタインに辿り着けるのか――。
ストーリー展開
物語はのっけからスピーディーに展開していきます。弁護士が手配した車にケインが行ってみると、そこには謎の死体があるし、マガンハルトだけを運ぶのかと思いきや彼の美人秘書も一緒。
こんな具合に次々と想定外の事態が起きます。ケインとハーヴェイのコンビはうんざりしながらも、一流のプロらしく淡々とそれらに対処していきます。
その後、トラブルが起きるたびに回り道をするはめになって、スピード感は落ちるものの、その過程でケインの過去やハーヴェイが抱える問題が明らかになります。
そのため読んでいて飽きません。非常にストーリーテリングの巧みな小説ですね。
フランス、スイス、リヒテンシュタインを旅するので、ロードムービーのような楽しさがあります。
主人公たちが密入国するために選んだルートは、断崖や塹壕などで自然の要塞みたいになっていて、雰囲気があります。
殺し屋たちとの銃撃戦もあるし、こういうのは海外小説でないとなかなか体験できないと思う。海外が舞台の場合、銃が出てきても不自然さがないので漫画的になりません。
魅力的なキャラクター
本作『深夜プラス1』の人気が高いのは、ケインとハーヴェイの味のあるキャラクターによるところも大きいと思います。
ケインは己の信条を貫くハードボイルドな性格で、仕事に誇りを持っています。自分流のやり方しかできませんが、人に対する思いやりがあります。
ハーヴェイの方はヨーロッパで三本の指に入る一流のボディーガード。しかし弱点を持っている人間味あふれる男です。この二人が本作の魅力を高めていますね。
あとがき
リヒテンシュタインはどこにあるのだろうと調べてみたところ、スイスとオーストリアの間にあって、その小ささに驚きました。地図で見るとほんと米粒くらいの大きさしかない。
外務省のデータによると、面積は瀬戸内海の小豆島くらいで、人口は36000人。どうやらスイスとは兄妹みたいな関係らしいけど、日本からすると未知の国ですね。
本作を読み終えて僕の中のオールタイムベストにも加わりました。それくらい面白かったです。好みは人によって様々でしょうが、読み難さは感じないし古臭さもありません。
海外小説の入門に適したおすすめの一冊です。
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