デスゲーム本格ミステリ『その孤島の名は、虚』 古野まほろ

island (2)

感想 ★★★★★

吹奏楽部の女子高生たちが突如謎の島に飛ばされて、そこでサバイバルを繰り広げる――という内容。生き残りをかけて戦う話や、閉ざされた空間からの脱出を試みる話が好きな人なら、きっと楽しめると思います。

しかも本作は新本格的な仕掛けも施してあり、非常に満足度の高い作品でした。ただ文章には少し癖がありますね。

それと、肝心な部分で数学の公式が出てきて、頭がこんがらがってしまいました(これは理系の方なら問題ないのかもしれない)。
 

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あらすじ

吹奏楽部の二十数名の女子生徒が学校で居残り練習をしていると、急に時空が歪むほどの力に襲われ、校舎ごと吹き飛ばされてしまう。

意識を取り戻した彼女たちがいたのは、謎の法則が支配する絶海の孤島。そんな状況に戸惑う彼女たちに悲劇が起こる。野生動物の襲撃に遭い、仲間の大半が命を落としてしまうのだ。

悲しみに浸りながらも生き残ったメンバーたちは三つの班に別れ、島の調査に乗り出すのだが、島にはさらなる秘密が隠されていた。はたして彼女たち無事に元の世界に戻ることができるのか――

あらすじと設定をきちんと説明しようと思ったら、かなりの文字数が必要となるので断念します。それだけ盛りだくさんな内容。サバイバル+青春+ミステリ+SFといった感じで、様々な設定がこれでもかというくらい詰め込まれています。

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単純なデスゲームではない

異世界に迷い込んだり、あるいはどこかに連れて来られたりして、殺し合いになる話はホラー小説や漫画などでよくあります。本作がそれらと異なっている点は、厳密なルールが設定されているところでしょうか。

あらすじだけだと荒唐無稽な話にしか見えないけれど、実は全然そうではなく、舞台となっている島にはそれこそ数学的な徹底した法則が存在します。こんなことをよく思いつくものだと感心しながら読みました。

そして、ただ殺し合うだけじゃないのがよかった。生き残ったメンバーは様々な事情から三つのグループに別れて戦うはめになります。

その際ちゃんと戦略、戦術を練って戦うのです。この攻防は見ごたえがあって楽しめました。彼女たちは対立していても、基本的には皆で元の世界に帰ろうと考えていて、そこにも好感が持てます。

本格ミステリとして

島の謎を解こうと行動するところは、アクションRPGのような面白さがあります。そして最後に解かれる島の秘密ですが、この部分の説明がわかりづらかった。

台詞は説明的だし、そのうえ数学の公式まで出て来るものだから、眉間に皺をよせて頭を掻き毟りたくなった。理系の人はこの説明でもすんなり頭に入って来るのでしょうか。

僕には説明が上手いように思えなかった。それと、台詞で何度も改行しているのが気になる。これは読みづらさを助長しているだけでしょう。

いったいどういう結末になるのかと読み進めていたら、最後に意外性が用意されていて、ミステリ好きとしてはうれしかった。

その時の情景も、謎の島のラストにふさわしい美しさと妖しさがあって、雰囲気を盛り上げていました。読後には少しの悲しさと爽やかさに浸ることができます。少しの欠点はあるにしても、それを覆い尽くすだけの魅力に満ちた作品でした。

あとがき

古野まほろ作品を読むのは今回が初めてなんですが、その経歴を見てまず驚かされました。東大法学部出身で警察庁のキャリア組って、途轍もないエリート人生じゃないですか。

そんな人がなぜミステリ小説を書こうと思ったのか、そのこと自体がある意味ミステリだ。さぞ硬質な文章なのだろうと予想していたら、案に相違してゆるやかだし、とても興味深い作家さん。


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