感想 ★★★★★
ホラーやSFを得意とする著者の本格ミステリ小説。小林泰三氏は数多くの短編作品を創作している作家さんで、長編小説の数は極端に少ない。
本格ミステリであり、尚且つ長編でもある『密室・殺人』は、かなり希少価値の高い作品といえます。小林泰三ファンなら必読の一冊。
何を書いてもネタバレになりそうで書くのが難しいですね。普通のミステリじゃないことは確かです。好みはわかれるかもしれません。
あらすじ
ある日、四里川探偵事務所に殺人事件の容疑を晴らしてほしい、と依頼が持ち込まれる。依頼者は容疑者、仁科達彦の母親。達彦には妻である理奈の殺害容疑がかかっていた。
依頼を引き受けた四里川は、助手である四ッ谷礼子に、事件の現場へ行くよう指示。ある理由から殺人事件の調査に難色を示していた礼子だったが、四里川に説得され、嫌々ながら現場となった山奥の別荘へ向かう。
調査を続けるうちに礼子は、この事件が何とも不可解なものであると気づく。事件があった際、別荘は雪で閉ざされた状況。さらに密室となった室内に被害者はいた。にもかかわらず、被害者は屋外へ転落死してしまったのだ。
なぜ、このような状況になったのか頭を悩ませる礼子。時折、過去のトラウマのフラッシュバックにも襲われる。様々なことに苦心しながらも礼子は、刑事の谷丸と協力しつつ調査を進めて行く。
そのうち四里川も現場へ到着し、二人は別々の手法で捜査しながら、事件の解決に臨む。
感想
長編ミステリというと、連続殺人に発展するケースが非常に多い。より面白く複雑にするためという理由はもちろんのこと、中盤でダレテしまわないようにするため、という構成的な理由もあるのでしょう。
本作では連続殺人は起きません。冒頭で示された事件を解決するために、一つ一つ順序立てて調査を重ねて行きます。
中盤にイベントが発生しないので、平板で遅行な感じを受けるのは否めない。読む手が止まらないといったタイプではなかったです。
小林泰三は本来、ホラー、もしくはSF作家。ホラー小説大賞の短編賞を受賞しているし、本業は研究者なので、そういった作品を得意とするのは肯けます。
ただ今回は畑違いのミステリ、しかも本格。にもかかわらず、本格ミステリ作家としてもやっていけるのでは、と思うくらい、良質なミステリ作品でした。
ミステリとして破綻がないように、尚且つ、読者が驚くようにと、考え抜かれていることが良くわかるります。
あとがき
本格作家のような手慣れた感じではなく、考えながら丁寧に作ったという印象。そんな中に自分の持ち味であるホラーの要素もちゃんと埋め込んでいます。
小林泰三らしさが発揮された独特な作品。読んで損はないです。
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