感想 ★★★☆☆
大学の先輩である阿武隈川烏(あぶくまがわ からす)がたびたび登場し、長編ではわからなかったトラブルメーカーぶりをいかんなく発揮しています。
大きな驚きを得られる話はなかったものの、普通に楽しめる作品でした。尚、短編と言ってもそれなりにページ数はあります。
あらすじ
『死霊の如きあるくもの』
雪の足跡もの。現場には被害者の足跡しかなくて、犯人はどうやって殺人を行ったかが問題となる。
『天魔の如き跳ぶもの』
これも足跡の問題。足跡が道の途中で突然消えて行方不明になった人物の謎を、刀城言耶と阿武隈川の二人が探る。
『屍蝋の如き滴るもの』
さらにこちらも足跡の謎。怪奇色がわりと強めか。
『生霊の如きだぶるもの』
ドッペルゲンガーが現われる一族の話。戦争で死亡したと通知が届いた後に、跡取り息子が帰ってくる。しかし、一人ではなく二人が帰って来て、どちらも自分が本当の息子だと主張する。はたしてどちらが本物なのか。
『顔無の如き攫うもの』
密室からの消失もの。行き止まりになった場所から子供がいなくなり、代わりに顔のない化物が現われる。
謎とトリックについての感想
こういうトリックをバカバカしく感じる人もいるでしょうが、僕は嫌いじゃない。今のミステリは心理トリックが圧倒的に多いので、この手のトリックは応援したいです。
そういう意味では『天魔の如き跳ぶもの』もユニークなアイデアでした。
時代は同じだし、戦争から帰って来た復員兵が跡取り、などオマージュ的な要素がありますね。
この短編が一番長編のテイストに近く、ストーリーが練り込まれていました。長編とまでいかなくとも、最後にどんでん返しの連続があり、結末には意外性があります。
しかし、予想通りと感じる人も一定数いると思う。それは『顔無の如き攫うもの』にも言えて、このトリックに関しては、本格ミステリ小説を読み慣れている人なら、真っ先に頭に浮かぶかもしれません。
総評
どの話も最後に怪奇的な謎を残していますが、後付けのような感じがしてしまう。怪異との融合を目指してるから付け足しておきました、みたいな。
だからちっとも怖くなくて、個人的には別になくてもよかったんじゃないかと思いました。
同じ足跡をテーマとしていても、それぞれ趣向を凝らしており、バラエティに富んでいます。それだけでも充分成立していたと思う。
ホラーとの融合に関しては、前作『水魑の如き沈むもの』がとても良かった。今のところ刀城言耶シリーズは、長編の方が面白いですね。
コメント
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