刀城言耶シリーズ『幽女の如き怨むもの』三津田信三

japanese-umbrellas

感想 ★★★★☆

戦後間もない日本を舞台にした本格ミステリシリーズ、通称・刀城言耶シリーズの第6長編。三つの遊郭で起きた身投げ事件が今回の話です。

四部構成になっていて、刀城言耶は最後の四部にのみ登場します。今までとは違ったやり方になっていました。

スポンサーリンク

あらすじと内容

第一部

故郷から遊郭に売られてきた少女が、花魁に成長するまでの物語。金瓶梅楼という遊郭で働くことになった桜子は、当初花魁がどういうものかわかっていなかった。

お金を稼げる華やかな職業として憧れすら抱き、日夜稽古に励んでいた。そして長い修行を終えて花魁になった時、そこで初めてこの仕事の真実、過酷さを知る。

緋桜という名で働くようになった彼女は人気者となり、特別室の三階の部屋を使うようになる。だが、その部屋には花魁の霊、幽女が出るとの噂があって、彼女もその影響を受けることに。

そんなある日、何かに導かれるように桜子は、三階の窓から身投げするも、寸でのところで助けられる。恐ろしくなった桜子は遊郭から去ることを決意する。

第二部

遊郭の女将による語り。母親の後を継いで女将となった優子は、名前を金瓶梅楼から梅遊記楼と改め、忙しい日々を送っていた。

そこへ染子という女が売られてきて、彼女を二代目緋桜として売り出すことになった。これが当たって彼女は忽ち人気者となり、三階の特別室が宛がわれる。

そして二代目も幽女を恐れるようになり、またも身投げ事件が起きてしまう。

第三部

作家の取材原稿という体裁。戦後になり梅遊記楼は梅園楼という名前に変わっていた。作家の佐古は、この店でかつてあった身投げ事件を取材する。

これだけ身投げが続くのは、金瓶梅楼よりも以前にこの地で何かあったからではないか、それが幽女の正体ではないかと睨む。

そして取材を続けるうちに、自身もこの呪いめいた現象に巻き込まれていく。

第四部

刀城言耶の解釈。刀城言耶は佐古の記した身投げ事件の取材記事を読んで、この事件に関わることになる。これまでの情報を手掛かりに、彼は三つの楼で起きた不可解な身投げ事件の真相を探る。

スポンサーリンク

シリーズ内では異質の小説

これまでのシリーズ作品は、怪異譚を求めて刀城言耶が各地へ赴き、そこで事件が発生して巻き込まれるというパターンでした。いわば現在進行形で物語を体感する形になっていた。

それが今回は上記のようなやり方になっていて、また違った読み味となっています。花魁や遊郭についてはもちろんのこと、それらを通して時代の習俗がわかり、非常に読み応えのある作品になっています。

しかしながら、これを刀城言耶シリーズにする必要があったのかは疑問。最後に意外な結末が明らかになって、ミステリに違いはないのですが、第一部、第二部もミステリという感じではないです。

そのため、謎解きが目当ての人はやきもきするかもしれないし、花魁の詳細なんてどうでもいいよとなる人もいるかもしれません。

ミステリ小説というより時代小説

本作について考えていると、違う形で発表した方が良かったんじゃないかという気がしてきます。例えば、第一部を時代小説として発表する手もあったと思う。

時代小説の読者にこそ、この第一部は相応しい気がしました。そういう人たちは本格ミステリの、しかも刀城言耶シリーズの一冊を、たまたま手に取るようなことはいだろうから、凄くもったいない気がしました。

時代小説の読者にもっとアピールしていった方が良いと思います。それほど、花魁として生きることになった一人の少女の物語として完成度が高いのです。

あるいは、花魁、遊郭について詳しく調べられているので、そういう学術書として出しても評価されそうです。

本書は読みごたえのある濃密な物語で楽しめたけれども、今一つTPOにあっていない気がしたのも確か。

ページ数も多いので、上に書いたようなことに興味がないなら読まなくていいかもしれません。

反対に、花魁やその時代の習俗に興味がある人には、強くおすすめします。僕の中では、ミステリ小説としては星三つで、時代小説としては星五つという感じですね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました