刀城言耶シリーズ感想 『生霊の如き重るもの』三津田信三

yurei

感想 ★★★☆☆

刀城言耶シリーズの短編集第二弾となる本作には、五つの話が収録されています。そのどれもが刀城言耶が学生時代に体験した事件。

大学の先輩である阿武隈川烏(あぶくまがわ からす)がたびたび登場し、長編ではわからなかったトラブルメーカーぶりをいかんなく発揮しています。

大きな驚きを得られる話はなかったものの、普通に楽しめる作品でした。尚、短編と言ってもそれなりにページ数はあります。

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あらすじ

『死霊の如きあるくもの』

雪の足跡もの。現場には被害者の足跡しかなくて、犯人はどうやって殺人を行ったかが問題となる。

『天魔の如き跳ぶもの』

これも足跡の問題。足跡が道の途中で突然消えて行方不明になった人物の謎を、刀城言耶と阿武隈川の二人が探る。

『屍蝋の如き滴るもの』

さらにこちらも足跡の謎。怪奇色がわりと強めか。

『生霊の如きだぶるもの』

ドッペルゲンガーが現われる一族の話。戦争で死亡したと通知が届いた後に、跡取り息子が帰ってくる。しかし、一人ではなく二人が帰って来て、どちらも自分が本当の息子だと主張する。はたしてどちらが本物なのか。

『顔無の如き攫うもの』

密室からの消失もの。行き止まりになった場所から子供がいなくなり、代わりに顔のない化物が現われる。

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謎とトリックについての感想

トリックで一番面白かったのは『死霊の如き歩くもの』。島田荘司を彷彿とせる物理トリックが使われていて、面白味がありました。

こういうトリックをバカバカしく感じる人もいるでしょうが、僕は嫌いじゃない。今のミステリは心理トリックが圧倒的に多いので、この手のトリックは応援したいです。

そういう意味では『天魔の如き跳ぶもの』もユニークなアイデアでした。

表題作の『生霊の如き滴るもの』は、あらすじを見ても明らかなように、横溝正史の『犬神家の一族』を彷彿とさせます。

時代は同じだし、戦争から帰って来た復員兵が跡取り、などオマージュ的な要素がありますね。

この短編が一番長編のテイストに近く、ストーリーが練り込まれていました。長編とまでいかなくとも、最後にどんでん返しの連続があり、結末には意外性があります。

しかし、予想通りと感じる人も一定数いると思う。それは『顔無の如き攫うもの』にも言えて、このトリックに関しては、本格ミステリ小説を読み慣れている人なら、真っ先に頭に浮かぶかもしれません。

総評

どの話も最後に怪奇的な謎を残していますが、後付けのような感じがしてしまう。怪異との融合を目指してるから付け足しておきました、みたいな。

だからちっとも怖くなくて、個人的には別になくてもよかったんじゃないかと思いました。

同じ足跡をテーマとしていても、それぞれ趣向を凝らしており、バラエティに富んでいます。それだけでも充分成立していたと思う。

ホラーとの融合に関しては、前作『水魑の如き沈むもの』がとても良かった。今のところ刀城言耶シリーズは、長編の方が面白いですね。

本書については、若かりし日の刀城言耶が見られるし、阿武隈川の人となりが知れるので、シリーズファンは必読の一冊。

コメント

  1. 突然のコメント、失礼いたします。
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