感想 ★★★☆☆
本格ミステリとダークファンタジーが融合したような作品。独自の設定がいろいろあって、最初はこの独特の世界観に慣れるのに時間がかかりました。
途中まではダークファンタジー、あるいはホラーのようなテイストで進んで行きますが、最後にはそれまでの不思議な出来事が論理的に解決されます。
一風変わった本格ミステリが読みたい人にお勧め。
あらすじ
多くの陸地が海に沈み、世界から書物が失われた世界――。
そんな世界を旅する英国人少年のクリスは、日本の小さな村にやって来た時に、奇妙な事件と遭遇する。あちこちの家に赤い十字架らしき印が書れており、周囲をとり囲む森では首切り事件が頻発しているという。
その犯人は森に潜む〝探偵〟なる化物の仕業ともっぱらの噂。そしてクリスが滞在中にも首切り事件が発生する。
化物は衆人環視の湖上のボートで殺人を行うが、岸に辿りついたのは首なし死体だけ。探偵の姿はどこにもなかった。
この不可解な事件に一同が恐れおののく中、政府から書物を取り締まる検閲官がやって来て、一連の事件の解決に臨む。
ひょんなことから協力することになったクリスは、この不思議な雰囲気の少年検閲官エノに次第に惹かれていくのだった。
設定
一応舞台は日本ということになっていますが、登場人物は外国人風の名前だし、雰囲気はヨーロッパを舞台にしたファンタジーといったところ。
世の中から書物は失われ、ミステリの情報は〝ガジェット〟と呼ばれる宝石の中に封じ込められています。つまりミステリのない世界。
なので、普通の人は犯罪方法を知りません。ガジェットを持った人物だけが、ミステリの情報を得て犯罪を繰り返しています。
そして、それを検閲官が取り締まる――という設定。
こういう設定のため最初は説明的な部分が多く、クリスが実際に事件を体験するまでが長い。そしてその後ようやく少年検閲官の登場となります。
だから中盤までは、読む手が止まらないというタイプではなかった。エノが登場してからは、それまでの靄がかかったような風景が一変します。
一気呵成の勢いで真相に肉薄していくので、読んでいて楽しい。
ミステリについて
事件は酸鼻極まる陰惨なもので、グロテスクな描写もたびたびあります。でも、語り手が優しい少年のため、柔かい雰囲気です。
童話かファンタジーを思わせる空気感で、ホラー的な怖さがある作品ではありません。
不可解な事件の数々も、超自然的なことかと思いきや、ちゃんと論理的に解決されます。なので本格ファンも安心して読めます。
トリックに関しては、さすが物理トリックの北山猛邦といったところ。力技というか、大味なところがあるにしても、真相は楽しませてくれます。
途中で挿入される子供の不可解な体験談にも、合理的な説明がなされ、そういうことだったのかと納得。
違った見方を示すことで、異常なものを現実的に見せるこのやり方は上手い。ただの怪異譚くらいに思っていたので、これには驚かされました。
この世界観を上手く活かしたトリック……というか、このトリックを成立させるために、世界の方を作ったのかもしれません。
それだけ特殊で、この世界でないと決して成立しないトリック。先に生まれたのがトリックだとしたら、よくこれだけの世界を作り上げたものです。
あとがき
ミステリーとファンタジー両方好きな人にとっては、願ってもない作品。こういう特殊設定ミステリが好きな人は、チェックしといて損ないです。
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