ミステリ短編集 『小さな異邦人』 連城三紀彦

bloom

感想 ★★★☆☆

情緒のあるミステリを書くことで有名な連城三紀彦の短編集。各種ミステリランキングで上位に入り話題となりました。

収録されているのは八編で、そのどれもが男女の愛憎劇を描いています。若者の恋愛のようなうぶな激しさはなくて、艶やかでしっとりとした雰囲気。大人の読み物という印象が強い。

十代二十代の若い人には向かないかもしれません。もともと僕は恋愛小説に興味がないので、ミステリとしての面白さで判断すると、『白雨』と『小さな異邦人』が飛びぬけていて、それ以外は普通ですね。

スポンサーリンク

気になった作品のあらすじと感想

『白雨』

過去に起きた主人公の両親の心中事件が謎の本筋。それに娘のいじめ問題も加わる。どうして娘はいじめられるのか。物語を重層的にするためのサブストーリーかと思いきや、この二つが意外なリンクを見せます。

この辺りのやり方はさすがのお手前。さらに心中事件の真相は、今までの景色ががらりと変わるような予想外のもの。

ミステリファンの期待通りの作品に仕上がっています。この作品はとても上質な短編ミステリ。

『小さな異邦人』

表題作は誘拐ミステリ。著者の連城三紀彦は、『人間動物園』や『造花の蜜』でも誘拐ものをやっています。

ミステリ作家でも誘拐ものをまったくやらない人もいるので、連城三紀彦は誘拐ものの名手といって間違いないでしょう。

上記二つで斬新な手法を披露してくれたのに、まだトリックが浮かんでくるのが凄い。

ある大家族に、子供を預かったから金を用意しろと連絡が入る。だが、子供は全員家にいて誰も誘拐されていない。

犯人の目的はいったい何なのか、最後に意外な結末が明らかになります。

『人間動物園』と『造花の蜜』では、プロットの妙で驚きをもたらしていた部分が大きいけれど、本作は着眼点自体が面白いです。

後半になって予想はできましたが、盲点とも言える発想には唸らされます。ただ納得できないこともあって、あの電話が何だったのかよくわからない。

ネタバレせずに書くのが難しいですが、あれが結局何だったのか書かれていなかったような気がします。まったく関係なかったのでしょうか。気になって手放しで満足できなかったです。

スポンサーリンク

総評

それ以外で印象に残ったのは『さい涯てまで』。この真相についてですが、ここまでの規模じゃなくても、こういう類のことをする女性はわりといるかもと思いました。

男からすると何とも言えない気分になる。なぜこんなことをしたがるのかはまったく理解できないけれど、真相には頷けました。

本書で一番好みだったのは『白雨』。これは本格ファンも好きな作品だと思うし、東野圭吾とかが好きな人も気に入るでしょう。

全編に言えるのは、やはり小説として工夫が凝らされていること。普通に主人公に寄り添って書くだけでなく、視点を変えたり構成を変えたりしています。

それでいて誰の視点か混乱することもない。さすが熟練した作家です。

著者の連城三紀彦さんは、三年前にこの世を去ってしまいました。もう新作を読むことができない。非常に残念。

コメント

タイトルとURLをコピーしました