『江神二郎の洞察』 有栖川有栖

感想 ★★★☆☆

学生アリスシリーズ初の短編集。アリスが大学に入学してからの一年が描かれていて、その間に起きた様々な事件が九つ収録されています。

江神、望月、織田との出会いから、マリアが推理小説研究会に入部するまでを、詳しく書かれているので、ファンには嬉しい一冊

これまで刊行された作品はすべて長編で、その中で起きる殺人事件をいつものメンバーが解決してきました。

殺人事件という性質上、どうしても暗くなってしまう部分があった。

しかし、今回扱っているのは日常の謎が大半なので、彼らのコミカルなやり取りが思う存分発揮されていて、微笑ましく読むことができます。

長編作品では、鮮やかな論理で謎解きの楽しさを堪能させてくれますが、本書に収められている話はそれほどではないです。

本格ミステリとしてのカタルシスを感じられる作品というより、些細な事件を通して、推理研の日常を描いた青春小説という印象。

もちろん、ミステリの楽しさを感じられる作品もあるので、その点は心配ないです。

『ハードロック・ラバーズ・オンリー』、『桜川のオフィーリア』では情緒を感じられるし、『二十世紀的誘拐』、『蕩尽に関する一考察』は日常のミステリそのもの。

舞台が昭和の終わりから平成にかけてなので、少し古さはありますが、ノスタルジックにも思えました。誰でも好きな短編が一つは見つかるでしょう。

本書の中で一番特殊な作品が『除夜を歩く』。

織田が書いたミステリ小説をアリスと江神が読んで、その推理をしながら大晦日の夜を二人で散歩する話。

この短編で著者のミステリに対する考えを知ることができます。

ミステリが孕む問題などが語られており、評論を読んでいるような気分になります。これは一読の価値あり。

それに、作中作の形で入る織田が書いた犯人当て小説もなかなか面白いです。

学生アリスシリーズのファンならば本書は大満足の一冊。そうでない人は平均的な評価になると思う。

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