傑作海外ミステリ『死の接吻』 アイラ・レヴィン

kiss-153587_640

感想 ★★★★★

著者が23歳の時に書いた処女長編で、傑作との呼び声高い作品。ミステリのランキングなどでたびたび目にしていたものの、読むのは今回が初です。

1953年に発表された作品ですが、古さは感じさせないし、読みやすいので一気に読めてしまいます。これが処女作というのが信じられないくらい構成が巧みでした。

スポンサーリンク

あらすじ

大富豪の娘と付き合っていた男は、ある日彼女から妊娠したことを告げられる。お互いまだ学生なのに、彼女は結婚してほしいと彼に迫る。

彼は途方に暮れた。厳格な彼女の父親に妊娠したことを告げれば、彼女が勘当されるのがわかりきっていた。玉の輿に乗るのが彼の目標のため、それは何としても避けたい事態だった。

学校を辞めて彼女と貧乏暮しをするなんてまっぴらごめんだったのだ。

そこで彼は、彼女に中絶させるための薬を飲ませようとするのだが、上手くいかず、彼はとうとう彼女を殺すことを決意する。

誰にもばれない完璧な手段、自殺に見せかける方法を思いつき、彼は実行に移す。

スポンサーリンク

物語の構成

ある男が金と地位を目当てに、大富豪・キングシップ家の娘に次々と手を出していく話。玉の輿の計画は思うように進まず、失敗するたびに彼は娘たちを殺害して行きます。

頭脳明晰な彼は完全犯罪を目論んで手を尽くすも、僅かなところでミスが生じ、次第に窮地に立たされます。

この小説がこれほど評価されているのは、やはり構成が巧みだからでしょう。本作は3部構成になっています。

第1部では大富豪の娘ドロシイとその彼氏のことが、彼氏視点で語られます。彼がどういう考え方の持ち主で、なぜ彼女を殺害しようと思ったのか、そしてその方法が語られるため、倒叙ミステリのような感じ。

ここでは恋人である犯人の名前は明かされず〝彼〟と表記されています。

第2部はドロシイの死の真相を追う、姉エレンの視点で話が進みます。そこで犯人候補が現われるんですが、第1部で名前が明かされていないため、誰が〝彼〟なのか読者にわからないようになっています。

ゆえに犯人当ての面白さがあります。途中で犯人が判明しますが、個人的にはもう少し引っ張って欲しかったですね。

とは言え、この後も面白い展開が待っています。

第3部はキングシップ家の長女マリオンの視点で語られます。何も知らないマリオンに〝彼〟が接近する様子が描かれていて、読者は歯噛みしながら二人のやりとりを見守ることになります。

このまま彼の目論見が達成されるのか、それともついに終わりを迎えるのか、ラストまで興味をそがれることはないです。

感想

こうやって改めてストーリーの流れを整理してみると、やはりよく考えられていて上手いですね。

一つの物語でありながら、第1部、第2部、第3部とそれぞれ違った楽しみ方ができるようになっています。ノワールであり、ミステリであり、サスペンスでもある素晴らしい作品。

主人公の〝彼〟が最低の人間であるのは間違いないですが、内面も描かれているため、そこまで嫌いになれない。戦争で辛い経験をしたこと、母親を喜ばせたいという想い、金と地位を欲する気持ちなどは理解できます。

ミステリーのオールタイムベストに食い込んでくるのも納得の作品。展開は面白いし、結末にも納得でき切なさもある。今読んでも普通に楽しめます。

学生が主人公で青春小説っぽさもあって読みやすいため、誰にでもおすすめ出来る一冊ですね。

あとがき

著者のアイラ・レヴィンは非常に寡作なんですが、もう一つの代表作が『ローズマリーの赤ちゃん』だと知り度肝を抜かれました。

ホラー映画の傑作として有名なあの『ローズマリーの赤ちゃん』の原作が、アイラ・レヴィンのものとは今まで知りませんでした。凄い作家だなあと改めて感心した次第。

コメント

タイトルとURLをコピーしました