『Zの悲劇』エラリー・クイーン あらすじと感想

 

感想 ★★★★★

ドルリー・レーンが活躍する悲劇四部作の第三作目。『Xの悲劇』、『Yの悲劇』に続く作品ですが、その二つと比べると本作は少し趣が異なります。

それまでは三人称で語られていましたが、本作は一人称で書かれています。しかも、若い女探偵の一人称。

この時代に女探偵を起用したのは大変珍しいことだったようです。

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あらすじ

ある街を牛耳っていた悪名高い政治家が、何者かに刺殺される。彼の元には文字が刻まれた箱と共に、復讐を思わせる手紙が送られていた。

送り主は最近刑務所を出所したばかりの元囚人アーロン・ドウ。この事件に関わることになったのは、元警視のサムとその娘ペイシェンス。

捜査の結果、ペイシェンスはドウが無罪であることを確信する。

その考えが正しいかどうか意見を窺うために、サム親子は名探偵ドルリー・レーンの元を訪れる。

それからはドルリー・レーンも一緒になってこの事件に関わることになる。

そんな中、今度は殺された政治家の兄である医師が殺されてしまう。またしても容疑はドウに。

ドウは第一の事件の時に逮捕されていたが、この事件の前に脱走していた。

再び逮捕されたドウは死刑判決を言い渡される。レーンとサム親子はドウの無罪を証明するため奔走する

 

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感想

本格ミステリとしての完成度でいうなら、『Xの悲劇』、『Yの悲劇』の方が上でしょう。

でも『Zの悲劇』の方が、現代に通じるストーリー性があるため、この作品の方が一般受けすると思います。

だから、人におすすめしたいんですが、いきなり本作を読むよりも、前二作を読んでおいた方が絶対に良いので、ちょっと躊躇ってしまいます(前二作は本格要素が強すぎてミステリ好き以外には勧めにくい)。

もちろん、いきなり読んでも問題ないんですが、このシリーズは順番通りに読んだ方がいいでしょう。

最初のうちはペイシェンスが主役となって抜群の推理力を発揮します。レーンが登場してからは語り手のようになっています。

レーンはペイシェンスの推理力に感嘆しながらも、偏った見方をしないようにレクチャーしていく。

先輩にトレーニングされ成長するというガジェットを、本格ミステリに取り込んでいるわけです。

刑事ものなんかでは、ベテランが新人をトレーニングするのはよくありますが、本格では珍しいのではないでしょうか。

物語の展開はサスペンスフル。死刑執行までに解決しなければならないという、時限装置を設定しているので緊迫感があります。

そして最後の解決シーンもドラマチック。尚且つ、本格ミステリとしての論理性も失っていません。

難点を挙げるなら、殺された被害者たちの過去のエピソードが現実離れし過ぎていて、その点がちょっとどうだろうと思いました。

あまりにもとんでもなさ過ぎるだろうと。それとも、この時代だったらそれほど奇異には感じなかったのでしょうか。

 

あとがき

悲劇四部作の中では、あまり評価が高くないようですが、僕はかなり好きな作品。

確かに論理の部分では、うーんと思ったりもしますが、ストーリーも展開もよかった。

エラリー・クイーンの他の作品と比べると格段に読みやすいし文句なく面白いです。

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