『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』 荒木飛呂彦


『ジョジョの奇妙な冒険』の作者として有名な荒木飛呂彦先生がホラー映画について語っている本書。紹介文に〝自身の創作との関係も交えながら、時には作家、そして時には絵描きの視点から作品を分析し、独自のホラー映画論を展開する〟とあったので興味を持って読んでみたのですが、わりと普通の映画評論でした。


本書では70年代以降のモダンホラーについて語っています。ホラー映画好きなら誰もが知っているような有名なものばかりで、新たな発見というのはなかったし、多くの作品を扱っていることもあり、分析と呼べるほど踏み込んだ話もなかった。だから映画評論としては物足りなく感じました。

著者が選ぶベスト20も有名どころばかり。面白い作品を選ぶとそうなるのは仕方ないとしても、何か独特な価値観を感じさせるものが入っていて欲しかったですね。奇抜な漫画を描き続けている著者だから、斜め上からの選考をしているのだろうと、勝手に期待していたのです。普通の映画好きが選んだランキングとさして変わらなくて少し残念だった。

もう一つ残念に思ったのは、Jホラーについての知識がないこと。ホラー映画好きを標榜するなら、Jホラーについても知っておくべきではないでしょうか。著者はJホラーは好きではないと言っていて、その理由が〝思わせぶりの演出の度が過ぎて、かったるくなる作品も多い〟からだそうです。個人の嗜好の問題なので嫌いなのは別にいいとしても、ホラー映画についての評論を書くなら、Jホラーがどういう意図で演出しているのか知った上で否定すべきだと思う。そのあたりのことについてはこちらの書籍がおすすめ。

この本を読めばJホラーが辿ってきた道筋を知ることができます。

一口にホラー映画といっても様々なタイプがあります。ゾンビ、心霊、殺人鬼、パニックなど細かく部類することができる。本書『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』では各ジャンルの有名作品を網羅しているので、これからホラー映画を見ようと思っている方にとっては良い入門書になっていると思います。もちろん荒木飛呂彦先生のファンの方にとっても。

ただ、深くつっこんだ評論を読みたいという人は物足りなさを感じるでしょう。個人的には漫画のどの部分に、どの映画が、どのような影響を与えたのか、もっと具体的なことを知りたかった。多くの読者が望んでいたのもそれだと思う。楽しんで読むことはできたものの、普通の映画紹介といった感じですね。

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