『傍聞き』長岡弘樹

 

感想 ★★★☆☆

日本推理作家協会賞を受賞した『傍聞き』を含む四つの作品が収められた短編集。
どの作品も端整ながらインパクトに欠け、ページ数も200ページほどしかないので、少し物足りなさを感じました。

賞をとった『傍聞き』は確かに良く出来ていて、本書の中で一番良かった。とはいえ、この作品目当てに買うべきかというと、それほどではないと思う。

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あらすじ

『迷走』

救急車で怪我人を運ぶ救急隊員たち。受け入れ先の病院を探すもなかなか見つからない。怪我人は命に関わるほど重症ではないが、あまり長い時間経つと危ういという状況。

やっと受け入れ先が見つかり病院へ急いでいると、隊長が妙なことを言いだす。すぐに病院へは入らずサイレンを鳴らしたまま駐車場を回れというのだ。はたして、その真意とは。

『傍聞き』

女手一つで幼い娘を育てる女刑事。喧嘩をすると娘は口を聞かなくなり、わざわざ自宅あてに手紙を送って、言いたいことを伝えてくる困った子供。それでも女刑事は娘を深く愛していた。

ある日、かつて自分が逮捕した窃盗犯が釈放された。お礼参りを危惧していた女刑事だったが、事態は思わぬ方向へ進む。

『899』

近所に住む女性に恋をした消防士の主人公。女性は一人で赤ちゃんを育てており、主人公はいつも気にかけていた。主人公が消防署で仲間と過ごしていると出動要請がかかる。その場所は恋心を寄せる相手の家だった。

女性は無事だったものの赤ちゃんが部屋に取り残されていて、主人公は救出のために赤ちゃんがいると教えられた部屋に入る。だが、そこに赤ちゃんの姿はなく……。

『迷い箱』

刑務所を出所した人を支援する施設で働く女性は、ある男を心配していた。彼は過失で人を殺しており、その相手の命日に死ぬことを考えていた。命日には死ななかったものの、男はその数日後に自殺を図った。なぜ、男は数日たってから死のうと思ったのか。

 

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感想

どの作品も人が死なないミステリで、希望のある終わり方をするので読後感がいいです。

トリックに関してはどれもたいしたことなく、途中でだいたいわかってしまう。ミステリの面白さは感じられませんが、無駄な描写がまったくなくて、構成の仕方は上手でした。

今一つインパクトに欠けると感じたのは、トリックに面白味がなくて、ドラマ性が希薄だったからでしょうか。どちらかあれば違ったんでしょうが、残念ながらどちらも欠けていた。

誰かを救出する立場の人を主人公にしていて、その試みには好感が持てます。短編集としてのまとまりもいい。

ただ、だからこそもう少し琴線に触れるようなストーリにしてほしかった、とも思います。

こういう劇的なことが起こらない、現実に即した話が好きな人もいると思うので、好みの問題もありますね。

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