問題だらけの小説『ポップ1280』 ジム・トンプスン

revolver-33898_640

感想 ★★★★☆

2001年版『このミステリーがすごい!』の海外部門で一位を獲得した作品。ジム・トンプスンの作品を読むのは『おれの中の殺し屋』に続いて二作目。本作は『おれの中の殺し屋』と並んで著者の代表作とされています。

今作の主人公ニックも田舎町の保安官で似たような読み味でしたが、『おれの中の殺し屋』のルーに比べると、幾分か常識があってサイコパスという感じではなかったです。

タイトルのポップ1280は主人公が住む街の人口の数。たったの1280人しか住んでいない小さな街が舞台となっていて、田舎町の閉鎖的な人間関係が描かれています。

主人公は都会に出ることも出来るはずなのに、なぜか田舎から離れることができない。自分が積極的に動こうとするのではなく、周りを動かそうとするところが、狭い社会で暮らす人間の考え方らしいなと感じました。

スポンサーリンク

ぶっ飛んだ主人公

保安官のニック・コーリーは様々な心配ごとを抱えていた。口うるさい妻とそのバカな弟、愛人、昔の恋人、選挙、売春宿の用心棒など、不安の種は尽きない。

彼は策を弄しその一つ一つを片付けていく。妻に好き放題罵られる弱くて情けない人間かと思いきや、殺人の時はまるで臆することなくあっさりと実行する。

いったいどういう性格なんだと戸惑ってしまいました。愚か者を演じているのではなく、情けないのが彼の本質だと僕には思えたのです。

ニックは容姿が良く、今まで女に困ったことがないという人物。そんなニックと女たちの愛憎物語という感じ。『おれの中の殺し屋』のような黒い狂気がみなぎる作品と言うよりは、どこかコミカルな感じのするブラックジョーク的な作品でした。

見た目が美しいローズとは不倫関係で、彼女は旦那に暴力を振るわれていた。ニックは旦那を殺害して一緒に街を出る計画を練るが、ニックが本当に好きなのは昔の恋人のエイミー。

そこで彼は邪魔な妻とローズを何とかしようと計画を練る。その計画はなかなかの鬼畜っぷりです。

スポンサーリンク

問題だらけの小説

現在だと問題になりそうな表現が多々あります。特に黒人に対する差別が凄くて、差別用語はバンバン出てくるし扱い方もひどい。

黒人に魂はないだとか、黒人が殺されても検視解剖しようとする医師はいない、といッた具合で徹底的に蔑んでいます。物語内の設定は第一次世界大戦末期だから、こういうことを変に隠さずありのまま表現しているのは好感が持てます。

とはいえ、これがそのまま発表されたのは凄いと思う。もともと安手の大衆雑誌に掲載された作品で、風刺的な意味合いが強いといっても、今ではとても考えられません。

でも不思議と不快な気持ちにはならないんですよね。台詞や語り口に汚い言い回しが多くても、コミカルで洒落が効いているため、むしろ読んでいて楽しかったくらい。

特にローズが相手を罵る時のセリフが凄まじくて笑ってしまいました。よくこんな言い回しを思いつくものだと、ある意味感心しました。この独特な表現の仕方は著者の特徴でもあって、癖になりそうですね。

あとがき

差別問題と合わせて、現代の小説ではなかなかお目にかかれないので、古い作品でありながら新鮮に感じます。

ストーリ自体は特筆するほどではないけれど、読む価値が高い小説。おすすめです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました