感想 ★★★★☆
犯罪学者の火村と作家の有栖川が活躍するシリーズの第七弾。本格短編ミステリを堪能できることで有名な本シリーズ。今回は四つの短編を収録しています。
あらすじと感想
『あるYの悲劇』
マンションで殺された被害者は、壁にYの血文字を残して死んだ。そのメッセージの謎を解く。
ダイイングメッセージもの。正直あまりいい出来とは思わなかったです。ダイイングメッセージの謎は、何とか納得もできなくはないですが、それ以外の部分で強引に感じる部分がありました。
『女彫刻家の首』
彫刻家のアトリエで首なし死体が発見された。犯人と目される男にはアリバイがある。首を持ち去った理由は何か。どうやってアリバイを作ったのかが物語の焦点となる。
アリバイトリックもの。本格ミステリにおいて首なし死体はお馴染みです。この作品で首を持ち去った理由ですが、真相を聞いてすんなり納得できました。おそらくこの理由にケチつける人はいないでしょう。それくらい明確で分かり易い。面白い着眼点の良作。
『シャイロックの密室』
書斎の中で頭を銃で打ち抜かれた遺体が発見される。窓は施錠されドアには閂がかけられていた。犯人はどうやって密室を作ったのか。
タイトルにある通り密室もの。他の作品と違って倒叙形式で書かれています。犯人目線で書かれているため、殺し方や動機は明らかになっています。どうやって密室にしたかが、謎として提示されます。
トリックに関してはそんな方法もあるのかと思うくらいで、驚くとか納得するとかそういう類のものではなかった。
『スイス時計の謎』
学生時代のサークル仲間たちは、卒業してからも定期的に同窓会を開いていた。その内のメンバーの一人が殺害され、時計も消失していた。犯人は残りのメンバーの中にいる。気心の知れた親友のはずなのにいったいなぜ。誰がなぜ殺したのか、そして時計はなぜ無くなったのか。
犯人を当てるフーダニットもの。まさに本格といった作品。タイトルにもなっているスイス時計がポイントで、火村はあるたった一つのことで犯人を指摘してしまう。
犯人がぐうの音もでなくなるそのロジックは鮮やかで見事でした。説明が少々込み入っていますが、ロジック好きは堪らないでしょう。
そして仲間の絆を描いた話としても、いろいろ感じ入るものがあってよかったです。
あとがき
表題作の『スイス時計の謎』が出色の出来でしたね。ロジックもストーリーも両方良かった。短編の傑作と言っていいでしょう。
他の短編に関しては、面白い部分があるにしても見劣りしますね。
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