感想 ★★★★☆
『乱れからくり』というタイトルに相応しい作品。いろんな設定が鏤められていて、慌ただしいのですが、押さえるところはちゃんと押さえていてさすが。
まるでからくり屋敷に迷い込んだかのような読書体験となりました。
あらすじ
考えるよりも先に体が動いてしまうボクサーくずれの勝敏夫。そんな彼が新たに就職したのは、企業の信用調査などを主な業務とする宇内経済研究会。社長は宇内舞子。
この二人が馬割家で次々と起こる不可解な事件の謎に挑むこととなる。
感想
敏夫と舞子が事件に関わるきっかけは、玩具会社部長の馬割朋浩から妻の素行調査をしてほしいと依頼が入ったから。
その妻を尾行をしている最中に、馬割夫妻の乗った車に隕石が落下するという、とんでもない事態が派生します。
このたまたま隕石が落下するということには、賛否両論があるようです。確かに突飛過ぎて現実感がまるでない。下手をするとチープな作品になりかねない危険性がある。
しかし作者はそんなこと分かり切った上でこの設定にしているのでしょう。現実感を持たせたいなら、普通に交通事故に巻き込まれるとか、やりようはいくらでもあるのだから。
読み終わってから考えてみると、この設定でよかったのだと感じました。
なぜなら、幕末期にまで遡る一族の謎や、奇特な外観のねじ屋敷、その庭に造られた五角形の迷路といった具合に、現実離れしたモチーフが次々と出てくるからです。
隕石の落下というパンチのある設定は、この奇術めいた華やかな物語の導入として、むしろふさわしいです。
それよりも僕が気になったのは探偵役・宇内舞子の人物造形。
主役の女探偵といえば、顔良し、スタイル良し、といった風に描かれるのが普通です。しかし、宇内舞子の場合はそうではない。肥満体形のキャラクターなのです。
あえてこうしたのは何故だろうと、それが気になって最初は戸惑いました。でも途中から気にならなくなり、だんだんとその人物描写に魅了されました。
このようにいくつか変わった要素のある絢爛とした物語ですが、トリックの部分は現実的で、本格ミステリとしてちゃんと納得できるものに仕上がっています。
あとがき
本作はからくり人形やからくり玩具についての蘊蓄が詳しく書かれています。そういった方面に興味のある方にとっては、一度に二度楽しめる小説となっています。
著者のこの方面に関する知悉ぶりは京極夏彦の妖怪に匹敵する。
なにはともあれ読んで損のない作品であることは確か。
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