『兇人邸の殺人』今村昌弘 感想

感想 ★★★★★

超自然的現象と本格ミステリが融合したシリーズの第三弾。ミステリ界で今最も注目されているシリーズと言っても過言ではないでしょう。

今回ももちろんクローズドサークル。舞台は廃墟遊園地にある館で、ジェイソンばりの怪物が登場します。隻腕の巨人で身体能力は人間を遙かに凌駕しています。

その巨人に襲われるスリルがありつつ、しっかり本格ミステリしていて面白かったです。ただストーリーは悲しくて辛い気持ちになりましたね。

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あらすじ

かつて斑目機関で研究者をしていた男が、廃墟遊園地にある兇人邸と呼ばれる館に住んでいる。その情報を掴んだグループに依頼され、剣崎比留子と葉村護も館に侵入する。グルーブの目的は斑目機関の研究資料を得ることで、剣崎たちとも利害が一致していた。

滞りなく侵入に成功したものの、そこで待ち受けていたのは、人間離れした身体能力を持つ隻腕の巨人だった。仲間が次々と巨人の餌食になる中、人間によるものと思われる殺人事件まで発生し、一同はパニックに襲われる。

果たして剣崎と葉村は無事にこの館から生還できるのか。

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感想

次々と新しいものを見せてくれる本シリーズ。今回もまた奇想天外でありつつ、ロジカルな謎解きを堪能させてくれました。

設定だけ見ると漫画やゲームのようですが、謎解き部分においてはかなり硬派。あらゆる可能性を検討し、除外して真実に辿り着きます。緻密に作り込まれていて唸らされました。

クローズドサークルでありながら、安楽椅子探偵をやっているのが本作の特徴ですね。本来は真逆のものなのに、これは新しい試み。

探偵役の剣崎とワトソン役の葉村を、離れ離れにすることでそれを可能にしています。その状況になるのに不自然さはないし、こうすることでスリルも発生していて、上手いなあと思いました。

トリックについてもすんなり納得できました。色々な謎が仕掛けられていますが、どれにも不満はありません。特に最後の鍵についてのやり取りが巧みでした。とてもユニークなトリックだったと思います。なるほど、その手があったかと、何度も首を縦に振りました。

難点をあげるとするなら、建物の構造が複雑なので、どこで何が起きているか瞬時に把握し辛いことでしょうか。見取り図を何回か行ったり来たりすることになりました。

それでも複雑すぎる訳ではないので、全然問題ないんですけどね。

謎とトリックについて

犯人は分かり易かったです。分かり易いと言っても、犯人に相応しいのはこの人物だよなあ、っていう漠然とした予想がそのまま当たる感じで、犯行方法は全然わかりませんでした。

著者も別に犯人当てミステリとして書いたわけじゃないでしょう。ハウダニットとしてロジカルに解決したし、動機も特殊です。意外な動機ものとしても楽しめます。

細かいことを言えば、力技に感じ点はありました。でも特殊設定だから、ある程度仕方ない部分はあるでしょう。ロジックには関係ないし、全然目をつむれるレベルでした。

ただあの凶暴な巨人を、どうやって館まで連れてきたのかは気になりました。いったいどんな方法が使われたのでしょう。そして館に引っ越すまではどうしていたのか。この辺に全然言及してないのは。ずるい気がしました。良い理由が思い浮かばなかったんでしょうか。

ストーリーについては、とても悲しくてやるせない気持ちになりました。ある人物が可哀想で、救いがなくて、そのことを考えると辛くなります。

あとがき

またもや驚きの世界を見せてくれて満足です。本格ミステリとホラーが好きな人は、きっと気に入ると思います。ただ、最後の意外な人物の登場はいらなかったと思います。

連載漫画みたいに一週間後、一ヶ月後とかに続きが読めるなら、ヒキとして良いと思うけれど、何年も空くのだから逆効果じゃないかと。

その人物については正直忘れていて、「え、誰だっけ?」となったし、次作で重要な役割を担うなら、次作の冒頭で出せば良い。どんな意図で最後の最後に登場させたのか分かりませんでした。

それならエピローグをもっと長くして欲しかったですね。濃厚なストーリーの割りに、ちょっとあっさりし過ぎな気がしました。

生き残った人物たちがどうなったのか、もう少し見たかったですね。

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