情緒のある怪談集『あちん』雀野日名子 

 

感想 ★★★★☆

『幽』怪談文学賞・短編部門の大賞受賞作『あちん』を含む五つの作品を収録した連作短編集。

著者の出身地である福井県を舞台にしており、その地に伝わる怪談をベースに創作されているようです。

主人公の高田奈津美は県庁に勤める二十五歳の女性。彼女が各話で次々と不思議な出来事を体験します。

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あらすじ

『あちん』

雨の日にお堀ばたを歩いてはいけない。オホリノテに影を喰われる――

地元の人間なら誰でも知っている噂話。暗い雨の日に奈津美はその話を無視してお堀ばたを歩いていた。

すると、戦時中にたくさんの人が亡くなったというお堀から黒い手が伸びてきて、奈津美は影を喰われてしまう。それから様々な怪現象が彼女を襲う。

『タブノキ』

出産を控えた奈津美の同僚の田川さんが無断欠勤するようになり、心配した奈津美は彼女の家を訪れる。

そこには普段とかけ離れた田川さんがいた。酒を呷り、煙草を吹かし、嘔吐を繰り返す田川さん。家族から事情を聞くうちに、こうなった原因が庭に植えてある御神木を切ったことだと判明する。

いったいどうすれば彼女の呪いを解くことができるのか。

『2時19分』

元彼と久しぶりに再会した奈津美。だが、その数時間後に彼は事故に遭って死んでしまう。

事故に遭った場所は人気の少ない山道。道路脇には公衆電話があって、午前2時19分に鳴る電話のベルを聞いたら死ぬという噂があった。

謎の呟きを残して死んだ彼はその音を聞いてしまったのだろうか。

『迷走』

東尋坊で自殺した遺体が流れ着く雄島。赤い橋を渡った先にあるその島は、順路と逆に回ると死ぬという噂がある。

奈津美は高校時代、仲の良かった亜希と宮地さんと一緒に遊び半分で逆回りした。その後、宮地さんが本当に死んでしまい、その出来事は奈津美のトラウマになっていた。

何年かぶりに亜希と再会することになった奈津美は、待ち合わせ場所である東尋坊近くの施設を目指して車を走らせていた。

だが、その途中にあるトンネルに入ってから、奈津美はどれだけ進んでもそこから抜け出せなくなってしまう。次期に奈津美は後部座席に死んだ宮地さんの気配を感じる。

『もうすぐ私はいなくなる』

毎年恒例の春祭りの準備に取り組んでいた奈津美は、一年前に首なし武者たちの武者行列を目撃していた。

それを見た者は一年後に皆亡くなっていた。自分も死んでしまうのかと、奈津美は死の恐怖に怯えながら落ち着かない日々を過ごしていた。

華やかな春祭りの日、奈津美を迎えるために武者行列がやってくる。

 

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感想

本書に収められている話はどれも正統な怪談という感じでした。

ホラーや怖い話ではなく、怪談という場合には情緒が必要だと思っていて、本書にはそれがちゃんとあありました。

心霊現象が起きて日本的な情緒を感じられる良作揃いです。

この中で一番好きだったのは『迷走』。切ないというか少し悲しくなる話で、物語としても良く出来ています。とても印象深い作品。

『トンコ』を読んだ時にも思ったけれど、雀野日名子はこういう切ない気持ちになるホラーを書かせたら、とても上手い。これからも期待したい作家さんです。

粒ぞろいの良質な短編集。夏になって怪談のシーズンがきたらまた読み直したいですね。

 

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