『人格転移の殺人』西澤保彦 あらすじと感想

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感想 ★★★☆☆

西澤保彦といえば本格ミステリの中にSF要素を取り入れた作風で有名。中でも初期作品にはその特徴が遺憾なく発揮されています。

タイトルの『人格転移の殺人』からも分かるように、本書もその趣向の作品です。人格転移が起きるクローズドサークルでの殺人という、かなり奇抜な設定。

いわゆる特殊設定ミステリですね。これだけ特殊でいて、ちゃんとミステリとして楽しめました。オリジナリティが光る作品。

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あらすじ

物語の舞台はアメリカ。とあるハンバーガーショップで食事をしていた日本人2人、アメリカ人2人、イギリス人、フランス人、アラブ人の計7人は巨大地震に巻き込まれてしまう。

その時に1人死亡。残りの6人は九死に一生を得る。しかし生き残った6人は別の施設に移され、それぞれの人格はなぜか入れ替わっていた……。

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感想

作者はこういった奇抜な設定に厳密なルールを定義し、その中で本格ミステリを展開するのを得意としています。

本作はそのルールを理解するのに少々時間が掛かりました。次々と人格が入れ替わっていくのですが、いったい誰が誰なのかが分かりづらく、最初のうちは混乱してしまいました。

表記の仕方も“肉体A”(=精神B)というように書かれていて、読み難さを感じます。物語が進むに連れ、徐々に慣れていきました。特殊設定ものでは、世界観に慣れるまでに時間を要するのがネックですね。

物語は『僕』の一人称で進んで行きます。人格転移が起こり戸惑っている中、連続殺人事件まで発生してしまう。

何故こんな状況の中で殺人事件が起きるのか。誰が何のためにそんなことをしているのか。その謎を主人公が論理的に解明します。

西澤作品ではよくあることですが、事件を解決するために登場人物たちがああでもない、こうでもないと様々な議論を展開します。これが結構長めなので少々疲れてしまいましたが、解決には納得。

トリック自体はさほど特別なものではないのですが、この設定に取り入れることで、まったく新しいものとなっており、その効果をうまく発揮しています。

あとがき

西澤保彦の文体は、若者っぽいというか、親しみ易さを感じさせるような書き方をしています。一般的な本格ミステリのように硬質な文章ではないです。

なので、もしかすると合わないと感じる人もいるかもしれませんね。

西澤作品では毎度のことですが、よくこんな設定を思いついたなあと感心させれます。細かいところも考え抜かれていて、読後感も悪くない。僕は好きな作品です。

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