感想 ★★★☆☆
ホラー小説を多く描いている著者の、全七編からなる連作短編ミステリ。本職はホラーだと思いますが、長編ミステリの『予言の島』などは話題になりましたね。
本作はwebマガジンのライターが主人公。webマガジンに寄せられる怪奇ネタを調査するうちに、様々な出来事と遭遇します。
連作短編ミステリだと、最終話でいろんな謎が収斂し意外な結末を齎すものが多くあります。本作もそのタイプ。
1つの長編として考えるとよく練られた物語になっています。ただ各短編の出来は平凡だったように思います。
あらすじ
『笑う露死獣』
ライターの湾沢陸男は、幼い頃に自身が体験した謎を調査をする。よく遊んでいた公園に奇妙な暗号が書かれており、子供たちの間で話題になっていたのだ。
当時は意味不明だった暗号も、大人になった今では容易に解くことができた。しかし、その暗号の行き着く先は予想だにしないものだった。
『歌うハンバーガー』
かつて売れっ子だったフードライターの女性は、拒食症と鬱を患い苦境に陥っていた。湾沢の助けもあり徐々に回復した彼女は、また記事を書くために変わった店がないか調査する。
打って付けの店を発見し、取材交渉のため店を訪れた彼女を迎えたのは、一風変わった店主だった。
『飛ぶストーカーと叫ぶアイドル』
ストーカーにナイフで刺され活動休止していたアイドルが、復帰ライブをすることになった。不安に苛まれつつもステージに立った彼女のもとへ、問題のストーカーが再び現れて……。
『目覚める死者たち』
かつて大事故が起き何人も亡くなった歩道橋が、心霊スポットになっていた。事故の悲惨さを考えると、怪談話の1つや2つあっても不思議ではないが、その裏にはある秘密が隠されていた。
『見つめるユリエさん』
絵の中の女性に恋をした男性の相談が、webマガジンに寄せられた。編集部一同は手分けして絵の調査を開始。その甲斐あってモチーフとなった女性を探し出すのに成功するのだった。
『映える天国屋敷』
山中に奇妙な屋敷があるとの情報が寄せられ、調査することになった湾沢。屋敷は手作りの人形で埋め尽くされており、作者の家主も独特の風貌だった。
だが決して悪い人ではなかったし、立派な創作活動と言えた。そこで湾沢はアウトサイダーアートとして記事を書き、屋敷は一躍有名になるのだった。
『涙する地獄屋敷』
人気になった屋敷には見物客が多く現れるようになった。家主もそれを喜んでいたのだが、不測の事故が起きてしまう。展望台にしていた二階のベランダが崩れ落ち、多くの怪我人を出してしまったのだ。
それからは一転して世間からバッシングを浴びせられる。しかしこれはただの事故ではなかった。
感想
全体を通して読んだ際の驚きがすべてと言っても過言ではないと思います。好評なのもそのインパクトが強いからでしょうね。
良くも悪くも驚きに慣れた本格ミステリ読者だと、そこまで驚きを得られないかもしれません。
個人的にはもう少し伏線が欲しい気がしました。それに強引に感じる部分もあった。でも謎解きを主眼とした本格ではないため、それを言うのは野暮かもしませんね。
狙いに関しては面白かったです。米澤穂信の『ボトルネック』を読んだ時と同じような、打ちのめされる感覚を覚えました。こういう読後感は嫌いじゃない。
各短編について触れておきますと、『笑う露死獣』は良質は短編でした。ミステリとして楽しめるし、結末の意外性や怖さもあって良かった。
ただ他の短編については、ミステリという感じではないですね。ホラーという感じでもない。事件が起きるエンタメ小説といったところ。
そういう意味で言うと、コアなミステリやホラーが苦手な人にもおすすめできます。飲んだくれの地下アイドルという個性的なキャラが登場するし、お話としては悪くないです。
あとがき
もっとがっつりミステリかと思っていたので、求めていたものと違う部分はありました。基本的には緩い空気感ながら、現実の問題を題材にしてたりして考えさせられますね。
コメント