開かずの扉研究会シリーズの第一作目で、著者のデビュー作でもあります。本作はメフィスト賞を受賞しているのですが、メフィストらしい作品でした。
現実感が希薄で、思いもよらない奇抜なトリックが使われた本格ミステリです。
あらすじ
斥候として仲間の一人が乗り込むも、突然連絡が取れなくなる。そこで彼らは慌てて急行するのだが、館はもぬけの殻で惨殺された死体だけが残されていた。
事態を把握できず呆気に取られていると、仲間から連絡が入り、館にいた人間は皆別の場所に監禁されているという。奇妙なことにそこは流氷館とまったく同じ造りとのこと。
そしてそちらに集められた人間が次々と殺されていく。
果たしてあかずの扉研究会は監禁場所を突き止め、この無常なる殺人劇を止められるのか――。
本格ミステリらしさ満載
これでもかというほど本格の要素が詰め込まれた作品でした。
人里離れた場所にある、いかにも怪しい建物。『そして誰もいなくなった』ばりのクローズドサークル。頭部が切断された惨殺遺体。一族の隠された秘密などなど、盛りだくさんです。
被害者たちはいったいどこに監禁さえているのか、このトリックがユニークでした。現実味が乏しかろうと、こういう大胆な仕掛けは好きなので楽しめました。
犯人についての推理も二転三転し、多重解決ものめいた面白さがあります。本格ミステリらしい奇抜な小説を読みたい人におすすめ。
キャラや設定について
このように魅力的な部分がいっぱいある一方で、これはちょっとなあと思うところも色々ありました。例えばクロロホルムがまるで魔法の薬かのように都合よく、しかも何度も使われています。
それに導入と解決編がやたら長かった。動機についてもそう。この手の作品であまりうるさく言いたくはないのですが、それにしても酷い。
被害者たちは特に悪いことなどしておらず、完全な逆恨みなのだ。こんな理由で大量殺人が起きていたら人類が滅亡する勢い。
それと主要キャラクターを好きになれなかったです。開かずの扉研究会は大学のサークルで、主要キャラは男女の学生たち。
ゆえに青春ミステリの側面もあるから、キャラに共感できるかどうかはとても重要。読み終わっての感想にも大きく影響を与えます。
僕は彼らに魅力を感じなかった。特にユイというキャラは賛否両論ありそう。最初は好感を持っていたけれど、だんだんわざとらしさを感じ始めました。
そしてラストシーンでは唖然とさせられた。あれだけ凄惨な遺体を何度も見た直後に、バーキューはないでしょう。
鳴海に対しても本当はそっとしておくのが普通だ。あれで元気を取り戻す鳴海もおかしい。このラストはもうちょっと考えた方がよかったんじゃないかと思う。あまりにも現実と乖離しています。
もし現実社会で彼らと同じ行動をとっていたら常識を疑われるレベル。
あとがき
このように受け入れがたい点があるにしても、本格ミステリとしては楽しめました。続編も読んでみたいという気にさせられる。あくまでもトリック目当てですが。なんか勿体ないなあ。
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