感想 ★★★☆☆
メフィスト賞からデビューした著者の早坂吝は、本格ミステリ界の新星として話題になっていますね。氏の作品を読むのは今回が初めてですが、一歩間違えればバカミスともなりかねないどんでん返しには、なるほど、さすがメフィスト出身だなと思わされました。
あらすじ
10歳の誕生日を迎えたアリスは父親から誕生日プレゼントをもらう。それは『不思議の国のアリス』の世界を体感できるVRゲーム。その中には5つの謎が用意されており、謎解きが大好物のアリスは小躍りしながら問題を解いていく。
アリスの父親は探偵で彼女も将来探偵になるのが夢なのだ。その推理力を生かして順調に問題をクリアしていくアリスだったが、最後に予想外の仕掛けが待ち受けていた。
設定が魅力的
本作は五つの短編からなる連作短編ミステリー。各短編は密室、誘拐、ダイイングメッセージ、アリバイトリックと多彩です。お馴染みの素材で調理された本格ミステリーのコース料理といった感じ。
謎にもそれぞれ趣向が凝らされています。とはいえ、あっさりし過ぎていて物足りなさを感じたのも事実。設定の妙で魅せる軽いタッチのミステリーだと判断して読み進めていきました。それならそれで楽しめたので特に不満はありません。
このままのテイストで終わると思っていた最後の章で、意外な方向へ進んだので驚きました。ネタバレになるため詳しいことは伏せますが、けっこう突拍子もないラスト。もともと現実感が希薄な話ゆえに僕個人としてはさほど無茶苦茶とは感じず、微笑ましい気持ちにすらなりました。
マイナス点
マイナスポイントはアリスがまったく10歳の女の子に思えないこと。二十歳前後の学生くらいのイメージしか頭に描けませんでした。若くても十代後半くらいですね。
本格ミステリーを成立させるためには、おそらく犠牲にしなきゃいけないことや、制約がいろいろあるだろうから、謎さえ面白ければ些末なことは目を瞑るというのが僕のスタンス。
しかし小説としては本来これは良くないでしょう。特に本作は一人称だし、それで主人公の年齢がその通りに見えないのは、マイナスと言わざるを得ません。
もう一つはストーリーの根幹にかかわることなので言いずらい。ネタバレしないように言うと、最初にアリスがした選択が最後に大きな意味を持ってきます。
もし最初にアリスが違う選択をしていたら、あそこはどのように展開していたのだろうと疑問に思いました。下手したら話自体が成立しなくなる。アリスがあの場所から○○して○○することが出来なくなるわけだから。
総評
と、このように気になる点があって感想は星三つにしました。面白さでいうと四つでもよかった。著者が注目されているのがわかる気がします。
調べてみるとこの方は京大ミス研出身らしく、なるほどなあと得心しました。同じ京大ミス研出身の綾辻行人や麻耶雄嵩と似たところがあります。そういう作家が好きな人は早坂吝のことも気に入るのではないでしょうか。
僕もこれから他の作品を読んでみようと思います。ベテラン作家とは異なる若い感性で書かれるこの系統の作品は非常に気になるところ。本作『アリス・ザ・ワンダーキラー』に関しては、若い人やミステリをあまり読まない人にもおすすめしたいですね。
VRとか『不思議の国のアリス』がモチーフのところとか、こういう設定は若い人に受けそうです。短編で読みやすいし、ミステリーのいろんな謎を扱ってのもいいです。
それにしても、この方はタイトルをつけるのが上手ですね。デビュー作の『○○○○○○○○殺人事件』も興味を惹かれますが、今回の『アリス・ザ・ランダーキラー』もこれ以上ないくらいばっちりなタイトル。とてもセンスを感じます。
コメント
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