感想 ★★★☆☆
5つの短編と4つの掌編が収められた短編集。表紙イラストとタイトルからコージーミステリと思っていたのですが、案に相違して後味悪い系ミステリでした。
世間の評価があまり高くないようなので、まったく期待してなかったのですが、意外にも(と言ったら失礼か)ちゃんとした短編集です。
小説推理新人賞の受賞作や日本推理作家協会賞の候補に選ばれた作品があるので、クオリティが低いわけないですよね。
ただ特別凄い部分がないのも事実。一定の質は保っているので、空いた時間などに読む分には全然ありです。
あらすじ
『大松鮨の奇妙な客』
浮気調査の尾行中にターゲットの男が意外すぎる行動に出る。立ち寄った鮨屋で失礼極まりない食べ方をしたのだ。なぜ男はこんなことをしたのか。
『私はこうしてデビューした』
小説家になるのを夢見て投稿生活をする主人公には、ある悩みがあった。ファンを通り越してストーカーになった人物に、意味不明なメールを連日送りつけられているのだ。
そんな主人公に朗報が届く。念願だった新人賞の最終選考に残ったのだ。そして自宅の電話で結果連絡を受けることになったその日、なんとストーカーから自宅に行くとの脅迫が届く。
外出するわけにも行かず、窮地に追い詰められるのだった。
『タンバタン!』
仕事に疲れたサラリーマンの細やかな楽しみは、行きつけのバーで一杯やることだった。しかし、そこへ癪に障る人物が現れ、馴れ馴れしく接してくるようになった。
しかもそれが大嫌いな上司と知り合いだと判明する。三人で嫌々飲んでいる最中に、まったく予想外の事件が起きてしまうのだった。
『見えない線』
見習いバーテンダーは客の女性に恋心を抱く。だが、その女性は不倫をしているらしく関係に苦しんでいる。それを知ったバーテンダーはある行動に出る。
『キリング・タイム』
町で偶然嫌いな上司と逢ってしまい、二人で飲むことになった主人公。上司は妻が不倫しているらしいと愚痴をこぼす。
主人公は気が気ではなかった。実際彼には秘密があったからだ。飲み終わった後、階段から突き落とされ命の危険が迫った彼は、上司にすべてを告白するのだが――。
『においます?』、『清潔で明るい食卓』、『最後のメッセージ』、『九杯目には早すぎる』は
4、5ページほどの掌編。
感想
本棚整理のための再読。昔読んだのは間違いないはずですが、全く内容を覚えていなかったので読み返してみました。初読と同じ感覚。
各短編には最後に意外な結末が用意されています。推協賞の候補になっていることからもわかる通り、ミステリとしての体裁はちゃんと整っています。
ただ手法に真新しさはなく、斬新なアレンジもありません。話には意外性をもたらしていますが、手法自体はよく使われるものをそのままやっている感じ。
なのでミステリ読みからはなかなか評価されづらいかなと思います。
話の内容に関しては嫌いではなかった。どれもザ・小市民という感じで、どこにでもいる庶民が登場人物。
その小市民さがよく書けています。誰しもが嫌な気分になる人物・状況設定は見事。ここは見所ですね。
ただ、主人公が中年男とかサラリーマンなので華やかさがありません。これは痛いところ。キャラ小説として読めないので、広く一般受けするタイプではないですね。
ミステリでは奇抜な人物ほど好まれがちなので、そういう意味でも評価されづらいかもしれません。
短編集としては工夫が凝らされています。各短編の間に掌編が挟まれていて箸休めになるし、こちらはいわゆる〝意味が分かると怖い話〟風になっています。
結末をはっきり書いておらず、忖度させるやり方。
短編と掌編で違った楽しみ方ができる構成になっており、読者を楽しませようという心意気を感じます。
あとがき
ミステリとして凄いわけでも、キャラ小説として個性豊かなわけでもないため、こういった小市民的な話を面白がれるかどうかで評価は変わりそうです。
内容的にも若者向けではないですね。
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