感想 ★★★☆☆
最近のミステリで使われるトリックは心理トリックが大半で、物理トリックが使われているのは極少数だと思います。
真相が明らかになった時に、心理トリックのほうが驚きが大きいのと、物理トリックはもうすでに使い尽くされており、真新しいトリックを案出するのが困難というのが主な理由でしょう。
そんな中、北山猛邦は物理トリックにこだわって創作し続けている稀有な作家で、過去の作品でも 意欲的に取り組んでいます。
代表的な作品は『アリス・ミラー城殺人事件』でしょうか。こちらの長編作品はメイントリックで有名ですが、物理トリックも使われていました。
今回読んだのはそんな北山猛邦のミステリ短編集『踊るジョーカー』です。
感想
本作は本格ミステリの形式を踏襲したユーモアミステリ。ワトソン役の一人称で話が進み、頭脳明晰な探偵によって謎解きが行われます。
探偵は音野順という世界一気弱なニート。ワトソン役は推理作家の白瀬白夜。それに加えて、二人を疎ましく思いながらも協力する気性の荒い刑事が、レギュラー人物として登場します。
このキャラクター設定はわざとらしすぎて少々嘘っぽさを感じました。それぞれの人物が類型的すぎて、特徴的にしているようで、むしろ平凡になってしまっている気がしましたね。
正直言ってそこまで面白い作品ではなかったです。しかしながら、徹底して物理トリックにこだわった姿勢には敬意を表したい。
今回の短編集に収められている五編は、いずれも物理トリックが使われています。個人的には『毒入りバレンタイン・チョコ』のトリックが面白かった。
多少ネタバレありでこのトリックについての感想を書いてみたい。
ネタバレあり
ある大学の研究室で、同じチョコを食べた四人のうち一人だけが毒入りを食べて病院に搬送された。チョコは同じ箱に入った一口サイズのもの。
その時現場にいたいずれの人物も、チョコを食べている最中に怪しい行動をとった者はいない。
このトリックをわかりやすく説明するのは難しいので、詳しい方法は割愛します。本編では図入りで説明しているので、すんなり理解できます。
どういうトリックかというと、磁石を使ってチョコに毒をひっつけるというもの。確実にターゲットだけを狙える方法で読んでいて納得できました。
その時は上手い方法を思いついたものだと感心しましたが、読み終わって冷静に考えた時に気になる点が見つかりました。
チョコが入った箱を運んでいる最中に、毒がチョコについてしまうんじゃないでしょうか。このトリックの場合、おそらくちょっと動かしただけでも、チョコに付着してしまうでしょう。
なので不可能とは言いませんが、この小説が書いている通りになる確率は限りなく低いと思う。
あとがき
各編ともミステリとしての驚き、カタルシスを感じられるような話はなかったです。ただ、作者の物理トリックに対するこだわりは感じられます。
物語や雰囲気は好感を持てるので、ゆるい雰囲気が好きな人におすすめ。
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